「誰が主導して取引を動かしていたのか」を見る

不存在債権は「詐欺か?」「不当原因給付か?」

契約の形だけでは主導権は分からない

2社間ファクタリングの取引を事実認定するとき、もう一つ確認しておきたいのが、実際に誰が取引を動かしていたのかという点である。

契約書の上では、業者と利用者が対等な当事者として契約を締結しているように見える。しかし、現実の取引では、利用者が必要な資金を求め、業者が条件を提示し、その条件に従って契約が進められることがある。

その場合、契約書に署名したという事実だけを見ても、取引がどのように形成されたのかは分からない。

誰が条件を提示したのか。

誰が金額や支払時期を決めたのか。

誰が契約の進め方を説明したのか。

そして、利用者がその条件を変更できる立場にあったのか。

こうした経緯を確認することで、契約書が完成するまでの実際の流れが見えてくる。

「合意した」という言葉だけでは経緯が消えてしまう

契約は当事者双方の合意によって成立する。

しかし、「双方が合意した」という一言だけでは、その合意がどのように形成されたのかは分からない。

業者が最初に条件を提示し、利用者がそれを受け入れたのか。

利用者側から条件を提示し、業者がそれを承諾したのか。

それとも、業者が用意した契約条件を利用者がほぼそのまま受け入れる形だったのか。

この違いは、契約そのものの成立を否定するためではない。

契約が成立するまでに、実際にどのような経過があったのかを確定するためである。

事実認定では、完成した契約書だけを見るのではなく、そこに至る過程も見る必要がある。

金額を誰が決めたのか

特に分かりやすいのが金額である。

利用者が「この売掛債権をいくらで売る」と自由に決めたのか、それとも業者側が買取額を提示したのか。

業者が提示した金額について、利用者が交渉できたのか。

さらに、業者から交付される金額と、後に利用者側から支払われる金額について、それぞれ誰がどのように決定していたのか。

こうした事実は、契約書の完成形からは分からない。

しかも、金額の決定方法は、取引の実態を見るうえで無視できない。

単に「売掛債権を譲渡した」という事実だけではなく、その取引において金銭がどのように決定されていたのかを見ることで、契約の運用が具体的に見えてくる。

支払条件を決めていたのは誰なのか

同じことは支払時期についてもいえる。

利用者が「この日に支払う」と自ら決めたのか。

それとも、業者が具体的な期限を設定し、利用者がその期限に従っていたのか。

支払いが遅れた場合、誰が利用者へ連絡したのか。

その連絡では何が要求されたのか。

こうした事実を確認すると、契約後の関係がどのように運用されていたのかが分かる。

もちろん、業者が支払期限を管理すること自体が直ちに問題になるわけではない。

重要なのは、実際に誰がどのような条件を決定し、その条件に基づいて取引が動いていたのかを事実として確定することである。

利用者が何を選択できたのか

さらに見るべきなのは、利用者側にどの程度の選択肢があったのかである。

提示された条件を受け入れるか、取引そのものを断るかという選択しかなかったのか。

条件について具体的な交渉が行われたのか。

契約後に条件が変更されたことがあるのか。

これらも一つ一つは小さな事実に見える。

しかし、取引の形成過程を確認するという意味では重要である。

「利用者も契約書に署名した」という事実だけでは、そこに至るまでの交渉や条件提示の実態までは分からないからである。

主導権という言葉だけで評価しない

ここでも注意が必要なのは、「業者が主導していたから問題だ」と単純化しないことである。

事業者が契約条件を提示すること自体は、通常の取引でも珍しくない。

だからこそ、主導権という抽象的な言葉ではなく、具体的な行動を確認する。

業者が何を提示したのか。

利用者は何を選択したのか。

どの条件について交渉があったのか。

契約後は誰が何を要求したのか。

その事実を積み重ねることで、初めて「この取引はどのように動いていたのか」という全体像が分かる。

取引を動かした側の行動には情報がある

2社間ファクタリングでは、契約書そのものが完成した後も取引は続く。

だからこそ、契約締結時だけではなく、その後の業者の行動を見ることが重要になる。

業者がどのような連絡をし、どのような条件を示し、どのような支払いを求め、支払いが行われなかった場合にどう対応したのか。

その一連の行動を確認すれば、業者が現実の取引をどのように扱っていたのかが見えてくる。

これは、業者を悪者にするための材料を探すということではない。

業者自身が実際に何をしていたのかを、そのまま確認するということである。

事実を並べれば、評価は後からついてくる

法的評価を急ぐと、「業者が主導していた」「利用者が従わされていた」といった評価から入ってしまう。

しかし、まず必要なのは、その評価の根拠となる具体的な事実である。

誰が条件を提示したのか。

誰が金額を決めたのか。

誰が支払時期を設定したのか。

誰が契約後の支払いを要求したのか。

そして、その要求に対して相手方がどのように対応したのか。

これらを確認すればよい。

「誰が取引を主導したのか」という問いは、結論を先に決めるための問いではない。取引が現実にはどのように動いていたのかを明らかにするための問いである。

契約書に二人の署名が並んでいても、その一枚だけでは取引がどのように作られ、どのように動かされ、どのような結果に至ったのかまでは分からない。

そこまで見て初めて、契約書の向こう側にある取引の実態を確認することができる。