ファクタリングにおける「額面回収されない債権譲渡」の本質的問題点

不存在債権は「詐欺か?」「不当原因給付か?」

はじめに

ファクタリング取引は、事業者が資金繰りを支える手段として広く普及しています。特に「債権譲渡であれば貸金ではない」とする形式論に基づき、多くの業者が貸金業登録を回避して営業しています。しかし、その実態を詳しく見ていくと、債権譲渡の形式をとりながらも、実質的には貸付に該当する取引が少なくありません。本稿では、そのようなスキームの核心にある「額面通りには回収されない債権譲渡」がいかに貸付と評価され得るかを検討します。

債権譲渡の対価と名目的な額面

ファクタリングでは、たとえば100万円の売掛債権を90万円で譲渡する取引が行われます。民法上、これは自由な価格決定の範囲であり、額面より安く売却すること自体に違法性はありません。譲渡人は早期資金化のメリットを得て、譲受人は債権を満額回収することで利得を得る構造です。

しかし、この構造が正当に成立するには、譲受人が債務者に対して100万円を回収する立場に立つことが前提です。つまり、「譲渡人が債権を手放し、譲受人がその債権に基づいて債務者から回収を行う」という本来的な債権譲渡の形が機能している必要があります。

回収委任の構造が示す名目的譲渡の実態

ところが実務では、債権の回収を譲渡人に委任するケースが一般的です。この回収委任のもとで、「譲渡人が債務者から回収した金額のうち、譲受人に引き渡すのは当初の買取額である90万円に限定される」とされる場合、譲受人は100万円の債権の回収権を持っているとは言えません。

形式上は100万円の債権を譲受しているように見えても、譲受人が現実に受け取るのは常に90万円であり、それ以上を債務者に請求することはなく、実質的に「90万円の金銭返還請求権」を譲渡人に対して保有しているにすぎません。

このような構造では、債権譲渡は名目的に行われているだけであり、実態としては「譲渡人が譲受人から90万円を借り受け、後日その金額を返済する契約」と構成すべきものです。

法的・実務的に機能しない「額面」

問題の本質は、債権の額面である100万円が法的にも実務的にも全く機能していない点にあります。契約書において債権額面を100万円と記載し、譲渡登記まで整えていたとしても、譲渡人が債務者から100万円を受け取りつつも、譲受人には90万円のみを支払うことが予定されているのであれば、そこに債権譲渡としての実体は存在しません。

つまり、債権の譲渡という形を装いつつも、実際には一定額(たとえば90万円)の金銭を貸し付け、それを回収する構図にすぎないという点で、出資法や貸金業法が規制する「貸付」と評価するのが妥当です。

貸付と評価される要件の充足

このようなスキームは、以下の観点から実質的に貸付とみなされるおそれがあります。

  • 譲渡人が回収義務を負っており、債務者との関係では債権を完全に放棄していない
  • 譲受人がリスクを負わず、元本および利得の確保を譲渡人に委ねている
  • 回収される金額が当初の支払額(90万円)に固定されており、債権額面に応じた変動がない

これらの事情がそろうことで、形式にかかわらず、実体としての貸付契約と評価される余地が大きくなります。結果として、年率20%を超える対価を設定していれば出資法違反、貸金業登録がない場合は貸金業法違反となる可能性があります。

なぜ実質貸付と見なされないのか

このような問題が訴訟や法的争点として顕在化していないのは、以下のような背景があります。

  1. 債権譲渡の契約書や登記により、形式的整合性が確保されている
  2. 回収委任契約や実際の金銭の流れが公開されにくく、外形上は正常な譲渡に見えやすい
  3. 裁判所や弁護士が契約の形式を重視し、実態への踏み込みが限定的である

その結果、「仮装された債権譲渡」が真正譲渡として通用してしまう実務が温存されているのです。

おわりに

額面通りには回収されない債権譲渡は、その形式を問わず、実体としては貸付である可能性が高いスキームです。形式的な債権譲渡の背後に、譲渡人による実質的な返済義務と、譲受人による一定額の資金回収という構造が存在するのであれば、それはもはや債権譲渡ではなく、仮装のもとに行われた貸付です。

こうした問題が長年見過ごされてきた背景には、形式の整合性に依存した法的判断のあり方がありますが、今後このようなスキームが規制の対象となる可能性は十分にあります。ファクタリング事業者および法務関係者は、「名目的債権譲渡」に潜むリスクを直視し、その実態に即した法的評価と対応を行う必要があります。