2社間ファクタリングをめぐる問題は、業者や銀行の責任だけでは終わりません。この市場に資金を呼び込み、商品として投資家に届けてきた証券会社の存在を抜きにして、構造全体を語ることはできないからです。とりわけ問われるべきなのが、金融商品取引法の根幹にある「適合性原則」という原則です。
適合性原則とは何を守るための制度なのか
証券会社は、単に商品を売ればよい存在ではありません。顧客の知識、経験、資産状況、投資目的に照らして、その商品が本当に適切かどうかを判断し、不適切な勧誘をしてはならない。この義務を定めたのが、いわゆる適合性原則です。
本来この原則は、複雑でリスクの高い商品を、理解できない投資家に売りつけることを防ぐための制度です。形式的な説明義務ではなく、「その商品を、その顧客に売ってよかったのか」という実質判断を求める、極めて重い義務でもあります。
問題は、2社間ファクタリング関連商品が、この原則の最も厳格な適用対象に近い性質を持っているにもかかわらず、ほとんど検証されてこなかった点にあります。
ファクタリング関連商品は、本来「高度な法的リスク商品」である
証券会社が扱ってきたファクタリング関連商品は、表向きは社債やファンド持分にすぎません。しかし、その裏側にある事業内容は、長年にわたり実質貸金認定の可能性が指摘されてきた極めて特殊な金融スキームです。
債権譲渡の形式を取りながら、実態は短期高金利の資金供給であること。
違法認定が出れば、取引自体が無効となり、過払い返還請求が発生する可能性があること。
業者が破綻すれば、投資資金が一気に回収不能になること。
こうしたリスクは、市場関係者の間では周知の事実です。
にもかかわらず、これらの商品はしばしば、「比較的安定した短期運用商品」「中小企業支援型投資」「低リスクのオルタナティブ商品」として販売されてきました。
ここに、適合性原則の最大の問題が潜んでいます。
証券会社は「誰に」「どのリスク」を売っていたのか
適合性原則が本当に機能していたのであれば、そもそもこの商品が販売される顧客層は、かなり限定されていたはずです。
法的リスクを理解できる専門投資家。
損失が出ても財務的に耐えられる機関投資家。
スキームの違法性を自ら評価できる高度な投資主体。
しかし、実際に販売されてきたのは、必ずしもそうした層だけではありません。地方の事業会社、資産運用目的の法人、場合によっては富裕層個人までが、この市場に引き込まれてきました。
問題は、彼らがどこまでこの商品の本質を理解していたのかという点です。
「ファクタリングは貸金ではありません」
「これまで違法とされた例はありません」
「弁護士の意見書を取得しています」
こうした説明だけで、実質貸金認定や過払い返還の連鎖という最悪のシナリオが、どこまで具体的に伝えられていたのでしょうか。
「説明義務を果たした」という言い訳の危うさ
証券会社は、何か問題が起きるたびに、決まって同じ説明をします。
「リスクは説明した」
「目論見書に記載してある」
「投資判断は顧客の自己責任だ」
しかし、適合性原則は、単なる説明義務ではありません。
問題は、「説明したかどうか」ではなく、「その商品を売ってよかったのかどうか」です。
たとえば、将来違法と認定される可能性が現実的に存在し、その瞬間に元本が大きく毀損する商品を、法的リスクを十分に評価できない顧客に販売すること自体が、適合性原則違反と評価される余地があります。
とりわけ、2社間ファクタリングの場合、違法認定が出るかどうかは、業者の努力ではなく、裁判所や当局の判断一つで決まります。投資家自身ではコントロールできない、極めて不安定な法的リスク商品なのです。
それを「安定運用」として売っていたとすれば、説明の巧拙以前に、販売行為そのものが問われることになります。
違法認定後、最初に争点になるのは適合性原則である
もし、2社間ファクタリングに実質貸金認定が出た場合、次に起きるのは、投資家からの責任追及です。
業者はすでに破綻している。
ファンドは清算に入っている。
そうなれば、投資家が次に向かう先は、商品を売った証券会社です。
そのとき、最大の争点になるのが、「この商品は、その顧客にとって適合していたのか」という点です。
違法性リスクをどこまで説明したのか。
顧客の理解度をどう評価していたのか。
なぜこの商品を勧めたのか。
これらが裁判の場で検証されれば、「説明した」という形式論だけで逃げ切るのは極めて困難になります。
銀行グループの中で、最後に残る責任の受け皿
さらに深刻なのは、証券会社が銀行持株会社の連結子会社である場合です。
適合性原則違反が認定されれば、それは単なる販売現場の問題ではなく、グループ全体の内部統制不全として評価されます。販売方針を誰が決めたのか。リスク商品としての格付けを誰が承認したのか。なぜ販売を止めなかったのか。
この責任は、最終的に持株会社の経営陣にまで及びます。
2社間ファクタリング問題は、もはや業者の違法性だけを問う話ではありません。
銀行グループが、どのような商品を、どのような投資家に、どこまで理解させたうえで売ってきたのか。
金融商品の基本原則そのものが、静かに試されている問題なのです。

