序 問いの到達点――責任は法で裁けるのか

不存在債権は「詐欺か?」「不当原因給付か?」

前章までで確認したのは、2社間ファクタリングをめぐる問題が、単一の違法行為ではなく、複数主体の不作為が連鎖した結果として成立していたという事実である。本章では、その不作為の連鎖を、国家賠償という法的枠組みの中でどこまで評価し得るのか、その射程と限界を整理する。

ここで重要なのは、責任を断定することではない。むしろ、どこまでが法の言語で語れ、どこから先が法の外に残るのかを見極める点にある。

第1節 国家賠償法の基本構造と不作為

国家賠償法一条は、公権力の行使に当たる公務員が違法に他人に損害を与えた場合に、国または公共団体が賠償責任を負うと定める。不作為についても、一定の場合には「違法な公権力の行使」に含まれ得ることは判例上確立している。

ただし、不作為が直ちに違法となるわけではない。作為義務の存在、違法性の程度、因果関係の立証という高いハードルが存在する。

第2節 作為義務はどこから生じるのか

作為義務は、常に明文の法令から導かれるとは限らない。危険の予見可能性、被害回避の容易性、行政の関与可能性などを総合考慮して判断される。

2社間ファクタリングの場合、問題は「規制すべきだったか」ではなく、「最低限の整理や注意喚起を行う義務があったか」に移る。相談窓口の明確化、統計の集約、制度的な位置づけの提示といった行為は、強度の低い作為として想定し得る。

第3節 違法性判断の難しさ――裁量との境界

行政には広い裁量が認められている。特に金融制度の設計や規制の有無は、政策判断の領域に属する。そのため、裁量逸脱・濫用が認められない限り、違法性の認定は困難である。

本件において争点となり得るのは、規制を行わなかったこと自体ではなく、長期間にわたり危険な構造が放置され続けた点が、裁量の範囲内と評価されるのかという点である。

第4節 因果関係――個別被害と構造的損害

国家賠償請求において、因果関係の立証は最大の壁となる。2社間ファクタリングによる被害は、個別事業者の経営判断や市場環境と絡み合い、単純な因果関係を描きにくい。

しかし、本件で検討すべきは、個別倒産との直接因果ではなく、構造的危険性が是正されなかった結果、同種の被害が反復・継続したという関係性である。この点をどこまで法が拾えるのかが、射程の限界となる。

結語 法が届かない場所を可視化する

国家賠償論は万能ではない。2社間ファクタリングをめぐる不作為のすべてを、法的責任として回収できるわけではない。

しかし、責任を認定できないことと、問題が存在しないことは同義ではない。法が届かない場所を可視化し、次の制度設計に接続することも、国家賠償論の重要な役割である。

この射程と限界を理解した上で、次章では、なぜこの問題が是正されないまま現在に至ったのか、その政治的・社会的背景を検討する。