2社間ファクタリングに出資する銀行の社会的責任とコンプライアンス

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はじめに

近年、2社間ファクタリング業者に対して、地方銀行やメガバンクの投資会社が出資を行う例が増えています。中小企業への資金供給を支える一手段として、また新たな収益源として位置づけられているファクタリング。しかし、その実態を冷静に見つめれば、そこには明らかな社会的責任の逸脱や、コンプライアンス上の疑義が存在していることに気づかされます。銀行は本来、社会の信頼を土台に運営される存在です。にもかかわらず、なぜこうした問題含みの事業に関与しているのでしょうか。

2社間ファクタリングの構造

2社間ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング業者に譲渡することで、債権の回収を待たずに現金化する資金調達手段です。売掛先には通知されないため、取引先との関係を損ねることなく資金化できるメリットがあります。しかし、一般にこの方式は手数料が非常に高く、さらに回収リスクも譲渡人側が負担するため、実質的には高金利の借入と変わらない構造となっています。

表面上は債権譲渡による取引に見えても、実質的なリスクの所在や支払いのタイミングを考慮すると、経済的実態は貸付と変わらないことが少なくありません。にもかかわらず、こうした取引を行うファクタリング業者の多くは貸金業登録を有しておらず、貸金業法や出資法の適用を回避して営業しています。

銀行の出資動向とその背景

メガバンクや地方銀行の投資子会社がファクタリング業者に出資する背景には、いくつかの経済的、制度的な要因があります。

第一に、収益性の追求です。長期にわたる低金利政策の中で、伝統的な融資業務の収益性が大きく低下している現状があります。その中で、高利の手数料を得られるファクタリング事業は、魅力的な投資対象として映ります。さらに、ファクタリングは短期的な回転が早く、キャッシュフロー面でも安定しているように見えるため、銀行側にとってはリスク分散の一環として評価されがちです。

第二に、直接融資からのリスク回避があります。銀行が融資を行えば、債務不履行が発生した場合、そのリスクはバランスシート上で直ちに跳ね返ります。しかし、出資という形であれば、リスクの所在はファクタリング業者に転嫁され、銀行は「間接的な関与」にとどまることが可能になります。すなわち、銀行は実質的なリスクを回避しつつ、高利の取引による果実を享受する構造を取っているのです。

第三に、金融イノベーションへの対応としての側面もあります。特に、AI審査や電子契約、クラウド帳票管理などのフィンテック要素を取り入れたファクタリング業者への出資は、銀行自身のデジタル戦略の一環と位置付けられることがあります。しかし、このような取り組みが社会的責任と適法性を伴っていなければ、それは単なる収益偏重の道具にすぎません。

社会的責任の欠如

銀行がファクタリング業者へ出資するということは、表面的にはベンチャー支援や金融包摂といった前向きな文脈で語られがちです。しかし、ファクタリングの現場では、高額な手数料設定や償還請求権の行使、さらには回収不能時のペナルティとして追加金の請求など、実質的に貸金に近い手法が多用されています。

こうした実態のもとで銀行が出資を行っているということは、資金繰りに困窮する中小企業の弱みに付け込んだビジネスを黙認、あるいは積極的に支援していると見なされても仕方ありません。実際、情報格差によりファクタリングのリスクを正しく理解しないまま契約に応じてしまう利用者も多く、経済的な被害に遭う事業者は後を絶ちません。

また、売掛債権の通知がなされない取引である以上、第三債務者(売掛先)にとっても透明性のない構造となっており、企業間取引の信頼性にも悪影響を及ぼすおそれがあります。銀行がこうした構造に資金を供給することの社会的意味は、極めて重いといえるでしょう。

コンプライアンスと法的整合性

ファクタリング業者の多くは、法律上のグレーゾーンを突いたスキームを用いています。たとえば、一括で買い取ったように見せかけながら実際は分割払いとし、売買ではなく返済に近い構造を取ることで出資法の利率規制を回避する手法や、業としての取立行為を「売買代金の請求」として形式的に偽装するケースなどです。

こうしたスキームは、実質的な貸付けに該当する可能性が高く、本来であれば貸金業登録を必要とする業務です。それにもかかわらず、形式だけを整えた売買契約をもって適法であると主張する事業者に、銀行が資金を供給することは、法令順守の観点から極めて問題があるといわざるを得ません。

金融庁が指針として掲げている「実質判断」の原則、すなわち取引の形式ではなく、実態に基づいて法令適用を行うべきという基本的な視点を無視するかのような出資行動は、銀行自身のコンプライアンス体制そのものの信頼性を損なうものです。

また、銀行は上場企業である場合が多く、株主や取引先に対して説明責任を負っています。したがって、グレーなファクタリング業者に対する出資がどのような内部調査とガバナンス体制の下で決定されたのか、十分な説明責任が果たされていなければ、将来的に企業価値の毀損にもつながりかねません。

再定義されるべき銀行の役割

金融機関は公共性の高い存在として、地域経済の安定と健全な成長を支える責務があります。その中で、法令の網をかいくぐりながら中小企業を高利の資金調達に導くような事業に関与することは、自らの存在意義を否定する行為です。

銀行が果たすべき本来の役割は、適正な審査と透明な条件のもとで、持続可能な融資を行うことにあります。確かに収益のプレッシャーが増す中で、代替的な資金運用先を模索する必要性は理解できますが、それが公共性を犠牲にしてまで行われるべきではありません。

また、銀行は資金調達力や信用力において他の金融事業者よりも圧倒的に優位に立っており、その力を健全な方向に活かすことが求められます。ファクタリング業者への出資に際しては、単なる収益性だけでなく、法的適合性と社会的倫理の両面から厳格な審査を行うべきです。

結論

2社間ファクタリング業者への出資は、収益性の追求という短期的な動機に支えられているかもしれません。しかし、それが中小企業に対する実質的な高利資金の供給であり、法的なグレーゾーンを助長するものであるとすれば、銀行の社会的信頼を根本から揺るがす行為です。

金融機関には、社会インフラとしての責任を果たすため、透明性と説明責任、そして実質的なコンプライアンス遵守を徹底する姿勢が求められています。ファクタリング業者への出資が、それ自体として問題なのではなく、その出資が誰を利し、誰を損なうのかという視点に立ち、判断を下すべきです。

今こそ、銀行が単なる「投資家」ではなく、「社会的基盤の一部」としての自覚を持ち、公共性を優先した意思決定を行うべき時です。