【踏み倒せば詐欺、入金を使えば横領――ファクタリング会社の横暴な脅し文句を斬る】

不存在債権は「詐欺か?」「不当原因給付か?」

はじめに――“刑事罰”を盾に取る悪質マーケティング

「踏み倒した場合は詐欺罪、売掛先から回収した売掛金を使い込んだ場合は横領罪」――あるファクタリング会社のホームページには、利用者を威圧するような文言が堂々と掲げられています。法律の素人が目にすれば「支払えなければ刑務所行きか」と恐怖し、言われるがままに高額な手数料を飲むかもしれません。しかし、この主張は法的にも論理的にも穴だらけです。むしろ事実上の高利貸付を“売掛債権の売買”と偽装し、利用者に不当な負担を強いる手口こそ、指弾されるべきではないでしょうか。

ファクタリングは“融資ではない”という建前――だが実態は貸金

ファクタリング業者は「債権の譲渡なので貸金業法の適用外」と声高に叫びます。確かに形式上は貸付契約ではなく売買契約です。しかし、二社間ファクタリングの多くは①売掛先に通知をせず、②譲渡人が売掛金を“代わりに”回収し、③期日までに入金できなければ“買い戻し”を強制されるという構造を取っています。これは資金を前渡しして後日元本+αを返させるという点で、経済的実質は貸金と変わりません。利息制限法や出資法で規制されるべき“高利”を“手数料”と言い換えているだけなのです。

不当原因給付――契約の土台が崩れれば返還請求は無効

民法上、譲渡禁止特約付き債権を秘密裏に譲渡したり、通知・承諾の手続を欠いたりしていれば、その譲渡は無効または債務者に対抗できません。無効な譲渡を前提として支払われたファクタリング手数料は「不当原因給付」に当たり、業者は受け取った金銭を返還すべき地位に立ちます。その意味でも、利用者が期日に資金繰りできず“踏み倒した”からといって即座に詐欺罪が成立するわけではありません。むしろ手数料の返還請求を検討できる場面すらあるのです。

詐欺罪・横領罪の要件と現実――業者の“脅し”に過ぎない

詐欺罪(刑法246条)が成立するには「欺罔行為」「錯誤」「財産的処分行為」「財物又は財産上の利益の移転」という4要件が揃う必要があります。売掛金の入金が遅れた、あるいは資金が不足して支払えなかったというだけでは、“欺罔行為”も“錯誤”も認められません。資金調達当時、支払うつもりであったのに結果的に破綻した場合、刑事責任ではなく民事責任の問題です。

横領罪(刑法252条)は「自己の占有する他人の物」を不法に領得する行為が対象です。売掛金が顧客の口座に振り込まれた時点で、その金銭が誰の占有に属するか――そもそも譲渡通知が無効なら、ファクタリング会社は第三者対抗要件を欠き所有権を取得しません。売掛金を“使い込んだ”としても横領罪の前提たる『他人の物』であることが揺らぎます。弁護士事務所の解説でも「単なる支払遅延や資金流用が直ちに横領になるわけではない」と指摘されており、業者の脅し文句は誇大広告の域を出ません。

威迫的表示は取引適正化ガイドラインにも違反

金融庁の周知文書や複数の専門家コラムでは、ファクタリング勧誘時に刑事罰をちらつかせる表示は「誤認を招く不当表示」に当たるおそれがあると警告しています。貸金でもないのに“踏み倒しは詐欺”と脅す行為は、消費者契約法の不当勧誘や特定商取引法の誇大表示に準じて問題視されるでしょう。法的リスクを誇張し、顧客の合理的判断を妨げる手口は、優越的地位の濫用とも評価されかねません。

売掛先への二重請求・取引破壊の危険

二社間取引では売掛先が譲渡を知らないままです。業者が「詐欺」「横領」を連呼して譲渡人に圧力を掛けた末、最悪の場合は売掛先に直接連絡し、重複請求や取引停止に発展するケースも散見されます。結果として、利用者は本業の信用すら失い、ファクタリング業者だけが高手数料を取り立てる――そんな構図が放置されています。

結論――“刑事罰”は誰のものか

ファクタリング会社が「踏み倒せば詐欺」「使い込めば横領」と宣言するのは、自らの高金利・不公正契約を正当化するための恐喝めいたレトリックに過ぎません。実態は貸金に等しく、法の網を潜って暴利をむさぼるビジネスモデルです。不当原因給付に基づく返還請求や、利息制限法相当の制裁金請求を受けてもおかしくない立場にあるのはむしろ業者側です。

利用者は“刑事罰”の四文字に怯える必要はありません。本当に罪に問われるべきは、貸金の面を隠して巨額の手数料を取り、多分に脅迫的な表示で契約を迫るファクタリング業者の方ではないでしょうか。