- 債権譲渡の建前と、取立委任の実態
二者間ファクタリングでは、表面上「債権を譲渡したのでリスクもリターンも譲受人へ完全に移転した」と説明されることが多いです。それでも実務を細部までたどると、譲渡人が取引先から一〇〇万円を満額で回収し、譲受人へ九〇万円だけを渡すという取立委任スキームが珍しくありません。ここには掛け目八〇%で前払金八〇万円を受け取り、残りの二〇万円のうち一〇万円を手数料・諸費用として譲受人に返す、という数字のねじれが存在します。譲受人は最終的に元本相当額に利得を上乗せして確保し、譲渡人は一〇万円を留保して取引を終えます。数字が債権額面と整合せず、キャッシュフローが途中で分断されている以上、この取引は真正譲渡として自己完結しているとは言えません。
- ディスカウントと「貸付的構造」の境界
ディスカウント自体は自由な売買価格の問題です。しかし譲受人が満額を得ず、譲渡人が差額を保持する構造になると話が変わります。リスクだけでなく債権から生じる利益も譲受人に帰属していなければ、経済的実質は「担保を取った貸付」に近づきます。つまり八〇万円を貸し付け、返済期日に九〇万円(元本+利息)を受領しているのと同じ図式になるのです。
- 金融庁の実態重視と、貸金業該当性
金融庁はファクタリングが貸金業かどうかを判断する際、契約書のノンリコース条項だけでなく「経済的側面や実態」に照らして総合判断すべきだと繰り返し注意喚起しています。売主が自ら資金で支払う義務を負う場合や、買い戻し・取立委任でリスクを負担する場合は貸金業に該当するおそれが高いと明示しています。
- 判例にみる「貸付」認定の可能性
判例はまだ取立委任の数字的不整合を正面から扱っていません。それでも給与ファクタリング訴訟では、債務者(労働者)が満額を受け取り、差額を業者に返す構造が「貸付け」に当たると判断され、無登録営業や出資法違反が認定されました。企業間取引でも同じロジックが適用されれば、利息制限法超過部分は当然に無効となり、過払金返還請求の対象になります。
- 二者間モデルの利便性と危うさ
それでも二者間モデルが温存されてきた背景には、取引先への通知を避けられる利便性がありました。売掛先に知られずに資金化できる点が評価され、利用側も「手数料が高くても信用毀損を避けられる」と割り切ってきた面があります。しかし回収主体が譲渡人のままでは、債権の実質的所有権移転が成立せず、貸金業規制を免れる根拠になりません。
- 真正譲渡のためのキャッシュフロー整合性
実務で真正譲渡を装うなら、譲受人が債権回収を引き受け、満額を取得した上で譲渡人に清算金を支払う――つまりキャッシュフローが債権額面と必ず一致する形に設計する必要があります。通知の問題を避けるなら、売掛先の承諾を前提に三者間契約へ転換するか、動産・在庫など別の資産を使うABLに置き換える方が、コンプライアンスと資金調達ニーズを両立できます。
- 利用企業が確認すべき3つのポイント
利用企業が確認すべき要点は三つです。第一に回収主体が誰か、第二に債権額面から生じるキャッシュフローがどこへ帰属するか、第三に前払金と清算金の合計が債権額面と一致しているか。この三つのいずれかが欠ければ、取引は貸金業法二条一項にいう「売渡担保その他これらに類する方法」と評価される可能性を孕みます。貸金業登録の有無や上限金利を超過していないかを必ずチェックし、疑義があれば早期に専門家へ相談する姿勢が欠かせません。
8. 2社間ファクタリングの違法性の確立と三社間ファクタリングの普及
ファクタリングの健全な普及には、まず2社間ファクタリングの実態に伴う違法性を明確に認識することが不可欠です。回収委任型スキームの数字的不整合によって貸金業法違反のリスクが高まっている現状を踏まえ、法的な枠組みの中で安心して利用できる三社間ファクタリングの普及促進が急務となっています。
三社間ファクタリングは、債権譲渡通知を債務者に行い、譲受人が回収主体となることで、真正譲渡の要件を満たしやすく、貸金業法リスクを回避しやすい構造を有しています。利用者側も取引先の信頼を損なわずに資金調達が可能となるため、業界全体で三社間モデルへの移行と普及を推進し、違法リスクの低減と中小企業の資金繰り支援の両立を目指すことが望まれます。

