―大阪地裁の判断と控訴審和解が示す実務上の危機―
2023年に大阪地裁で下されたある判決が、いまファクタリング業界に波紋を広げています。形式は「2社間ファクタリング」だったにもかかわらず、実態が「貸金業」として認定され、多額の過払い金返還が命じられたのです。このコラムでは、その判決文の記述を引用しながら、問題点と教訓を解き明かしていきます。
◆事案の概要 ― 「債権譲渡」という建前
中小企業である原告は、資金繰りのために「ファクタリング業者J社」と契約を交わし、「自社の売掛債権をJ社に譲渡する」形式で、約4,000万円分の債権を売却し、うち3,300万円程度の資金を受け取りました。
J社側は、これは典型的な債権譲渡契約、すなわち「ファクタリング契約」であり、「利息制限法や貸金業法の適用対象ではない」と主張しました。ところが裁判所の判断は、まったく異なるものでした。
◆裁判所の判断 ―「実質的には貸金契約」
裁判所はまず、両当事者の間の実態を丁寧に分析しました。以下は判決文からの引用です。
「原告がJ社に対して支払った手数料は、年率に換算すれば利息制限法所定の制限利率を大きく超える水準であり、かつJ社が回収不能リスクを実質的に負担していないことから、本件取引は形式上は債権譲渡契約とされているが、実質的には貸金契約に該当すると認められる。」
つまり、J社が「売掛債権の回収不能リスクを負っていない」、また「高額な手数料を受け取っていた」点を重視し、単なる名義貸しによる“偽装ファクタリング”であると認定したのです。
◆利息制限法の適用と過払い金の認定
このように「貸金契約」と認定されたことで、当然のように利息制限法の網がかかります。判決では以下のように述べられています。
「本件においてJ社が受領した手数料は、利息制限法所定の上限を超える利息に相当し、過払金として返還を要する。よって、J社は原告に対し467万4,182円を返還すべき義務を負う。」
ここで注目すべきは、単に「形式的に貸金」とみなされたのではなく、「その上で過払い金返還の対象となる」とまで踏み込まれた点です。これは、ファクタリング業者にとっては非常に重大な前例となるでしょう。
◆控訴審での和解 ― 被告は半額で“手打ち”
J社は控訴しましたが、大阪高裁では判決に至る前に和解が成立しました。和解の内容は以下の通りです。
「J社は原告に対し233万7,091円を支払う。原告は本件に関連してJ社に担保として差し入れた債権その他一切の担保を返還する。」
つまり、原審判決で命じられた約467万円の支払い義務がほぼ半額に軽減される形で解決したことになります。
◆ファクタリング業界への警鐘
この事件の最も重要な意義は、「債権譲渡形式をとっていても、実質において貸金と評価されることがある」という裁判所の明確な判断です。以下のような要素が特に危険信号として浮かび上がります。
◉ 回収リスクを実質的に譲受人(ファクタリング業者)が負っていない
→ 「債権譲渡」と称しながら、リスクを回避していると、貸金と認定されやすい。
◉ 手数料が年利換算で利息制限法を大きく上回る
→ 単に「手数料」や「ディスカウント率」と呼んでも、実質が利息と判断されれば違法利息になる。
◉ 買戻し特約や売掛先への通知を省略
→ 実務上よく見られるが、これが「償還請求権ありの偽装取引」と見なされる危険がある。
◆まとめ ― 書面より実態、実態より裁判官の目
この事案が示すのは、契約書に「債権譲渡契約」と書いてあっても、その実態次第では裁判所が「貸金契約」と認定しうるという冷厳な現実です。
ファクタリング業者は次のような自衛策を検討すべきです:
- 債権の真性譲渡であることを明示
(譲渡通知・第三者対抗要件の取得など) - 手数料水準の適正化と利率換算での確認
- 回収不能リスクを譲受人が実際に負担している証拠の保持
この事件は、ファクタリング業者にとって、契約書の形式だけでは身を守れないことを突き付けた強烈な警告といえるでしょう。

