■ 最初は“助かった”と思った
僕は大阪で小さな運送会社をやっています。
軽貨物2台と、契約ドライバーが3人。
下請けの配送業務を請け負って、毎月100万円前後の売上。
でも入金サイトが長く、燃料費や人件費を先に払わなければならない。
コロナ禍の頃から、資金繰りはいつもギリギリでした。
最初にファクタリングを使ったのは、取引先の入金が遅れた時。
検索で出てきた比較サイトから申し込み、
その日のうちに担当者から電話が来ました。
「請求書を送ってもらえれば、すぐに審査します」
「最短即日で入金可能です」
言葉通り、翌日には45万円が入金されました。
請求書金額は60万円、手数料は25%。
高いとは思いましたが、背に腹は代えられなかった。
その時は“助かった”という思いしかありませんでした。
■ 二社目、三社目へ──「紹介」が始まりだった
1か月後、同じ担当者から電話がありました。
「次回はもっと早く、もっと安くできますよ」
そう言われて、別の会社を紹介されました。
「うちはグループ企業だから」と説明され、疑うことなく契約。
ところが、手数料はむしろ高くなっていました。
請求額80万円に対して入金は55万円。
それでも「今回は特別審査だから」と言われると、断れなかった。
その後も、紹介業者から“優良ファクタリング業者リスト”のメールが届き、
気づけば三社目、四社目へ。
どの会社も同じように「即日入金」「安心の実績」をうたい、
書類提出の手間も似たようなものでした。
請求書の画像、通帳の写し、取引先とのメール、本人確認書類。
毎回それを提出するたびに、心のどこかで「また利用してしまった」と罪悪感を感じました。
■ “借金ではない”のに、返済地獄
半年が過ぎた頃、もう何がどの会社との契約なのか分からなくなっていました。
請求書を渡すたびに入金はあるけど、次の請求書を渡さないと返せない。
銀行口座に入ってくるのはファクタリングからの入金。
出ていくのはドライバーへの支払いと、次の業者への返済。
形式的には“債権譲渡”。
でも実質的には、“借金の繰り返し”でした。
冷静に計算してみると、手数料を年率換算すれば90%近い。
正直、ヤミ金と何が違うのか分かりませんでした。
けれど、業者は皆そろって言いました。
「うちは金融じゃありません。だから安心ですよ」
■ 情報が“商品”になる恐怖
ある時、利用していないはずの会社から突然電話がありました。
「岡本様、今月の資金繰りは大丈夫ですか?過去に弊社と類似のサービスをご利用ですよね」
驚いて問いただすと、
「関連業者から情報共有を受けております」との回答。
つまり、僕の情報は業者間で回されていたのです。
請求書の写し、取引先の社名、入金スケジュール――
それらが“資金需要リスト”として売買されていた。
もはや自分の経営状況が、商品にされているような気がして、
背筋が凍りました。
■ 精神も身体も壊れていった
ファクタリングの連鎖は止まりませんでした。
一度利用すると、それが癖になる。
次の入金をあてにして動かざるを得ず、常に資金繰りのことばかり考えてしまう。
夜も眠れず、頭の中で「あと何日で次の入金が来るか」だけを計算している。
ドライバーの一人が「社長、顔が変わりましたよ」と言ったとき、
ようやく自分が壊れ始めていることに気づきました。
■ 弁護士に相談して分かった真実
最終的に、信頼できる税理士の紹介で弁護士に相談しました。
契約書を見せると、弁護士は一言こう言いました。
「形式上は合法。でも、実質は金融取引です。つまり“脱法金融”ですね。」
その言葉を聞いた瞬間、涙が出ました。
ようやく誰かに“それはおかしい”と言ってもらえた気がしたのです。
でも、法的には戦えない。
貸金業法の適用外、金融庁の監督外。
つまり、どれほど搾取されても、誰も責任を取らない世界。
■ 終わりなき地獄の階段
今はなんとか再起し、業者との関係はすべて断ち切りました。
けれど、資金繰りが苦しかったあの日、
「即日入金できます」の言葉に救われた気がした自分を、完全に責めることはできません。
あの瞬間、確かに“助かった”のです。
でも、あれは助けではなく、地獄への招待状でした。
ファクタリングの世界は、階段を一歩下りるのは簡単。
けれど、上に戻るのは想像を絶するほど難しい。
僕のような人間がまだ全国に何百人、何千人といると思うと、
胸が痛みます。
■ 終章 ― 「救済」の言葉ほど、危険なものはない
ファクタリング業者は、決して「貸します」とは言わない。
代わりに「救います」「支えます」と言う。
けれどその言葉こそが、最大の罠です。
助けを求める人の“希望”を利用して、彼らは金を作っている。
合法の皮をかぶったこのビジネスは、
今も新しい名前とデザインをまとって、次の被害者を待っています。

