――“無料相談”から始まる情報収奪
「無料相談フォームに入力した瞬間、何かがおかしいと思ったんです。」
そう語るのは、都内でデザイン事務所を営む 中川香織さん(仮名・38歳)。
広告制作費の入金が2か月遅れると取引先から連絡を受け、
焦りながら検索した「請求書現金化」「ファクタリング 即日入金」のワード。
そこに表示されたサイトのタイトルは、
「中小企業の資金繰りを救う専門メディア」。
「無料相談・最短30分で資金調達!」
ボタンを押したのは、ほんの一瞬の迷いだった。
■ 無料相談フォームの裏側
サイトの見た目は、経済メディアや会計誌の記事のようだった。
だが、運営会社の表記を見ても、
「〇〇マーケティング株式会社」「△△メディア運営チーム」など、
金融機関とはまったく関係のない名称ばかり。
「フォームに入力すると、すぐに『担当コンサルタント』と名乗る人から電話がありました。
最初は柔らかい口調で、“助けになります”と。
でも話を進めるうちに、なぜか住所、売上、仕入れ先、入金サイト、税務状況まで細かく聞かれたんです。」
要するに、その「無料相談」とは、アフィリエイト型送客の入口だった。
フォーム入力=リード情報(見込み客)として、
複数のファクタリング業者に情報が転売される。
中川さんが実際に電話を受けたのは、3社目の業者だった。
■ “助けるための審査”という名の情報収奪
「審査に必要です」と言われて送ったのは、
・免許証
・請求書
・取引先とのメール
・振込履歴のキャプチャ
それだけでなく、「個人事業主としての納税証明」や「クライアント名」まで要求された。
当初は“審査資料”だと思っていたが、後に別の業者から同じ取引先を名指しで営業電話が来た。
つまり、個人情報が業者間で共有・転売されていたのだ。
「気づいた時には遅かったです。
次々に“審査通過しました”とメールが届いて、どれがどの会社かも分からなくなりました。
結局、最初に対応の早かった業者にお願いしましたが、
振り込まれたのは請求額50万円のうちわずか35万円。
手数料は30%。しかも“再契約時には優遇”という言葉に釣られて、
気づけば3回繰り返していました。」
■ “合法”を盾にした支配構造
問題は、これらの業者やアフィリエイトサイトが、
**「貸金ではないから合法」**を繰り返し強調していることにある。
だが実態は、貸金と同等の性質を持ちながら、
監督官庁の目が届かないグレーゾーンに存在している。
「私たちはお金を“借りた”のではなく、請求書を“売った”ことになっている。
でも、実際には返済義務があり、入金が遅れるとペナルティ。
契約書には“遅延損害金”なんて言葉までありました。
どう見てもローンですよね。」
中川さんが言う通り、形式的には“売買”でも、
実質的には“短期高利貸し”に近い構造だ。
しかも、そこにアフィリエイト報酬の利害関係が加わり、
情報収集・転売・囲い込みというビジネスモデルが完成している。
■ 広告代理店が作る「善意の仮面」
さらに深刻なのは、これらの「比較サイト」「メディア」を作っているのが、
一般的な広告代理店や制作会社である点だ。
記事ライティングの外注先には、“経済ライター”を名乗る個人が多く、
原稿料は1本数千円。
つまり、金融知識も倫理観も持たないライターが“救済記事”を量産しているのだ。
「まさか広告だとは思わなかった」
「“専門家監修”って書いてあったから信じた」
被害者がそう語るたびに、広告代理業の倫理が問われる。
■ 被害の“見えない構造”
アフィリエイト業者は、利用者との直接契約がない。
つまり、トラブルが起きても「うちは送客しただけ」と逃げられる。
一方で、ファクタリング業者は「紹介で来た顧客だから、問題はそちらで」と言い訳する。
この“責任のたらい回し”こそが、被害者を孤立させる構造だ。
「誰に怒ればいいのか分からない。
広告も、比較サイトも、コールセンターも全部別会社。
最初に入力したフォームを思い出すと、いまでも胸が苦しくなります。」
■ 編集後記
ファクタリングをめぐるアフィリエイト構造は、
もはや単なる広告問題ではない。
それは、資金繰りに追い詰められた事業者の心理を利用した“情報収奪型金融”のシステムだ。
無料相談フォーム、メール審査、即日入金――
それらはすべて、データを集め、弱者を選別するための仕掛けにすぎない。
「誰でも利用できる」ではなく、
「誰でも狙われる」時代になっている。

