――救済の名を借りた再搾取
「もう二度と関わりたくないと思っていたんです」
静かにそう語るのは、元ファクタリング利用者の 川井理沙(仮名・41歳)。
都内で小さなデザイン事務所を営む彼女は、
“救済”を名乗る弁護士広告を見て、再び地獄の扉を開けてしまった一人だ。
■ 「あなたの被害を、弁護士が守ります」
広告の見出しは清潔感のある青いデザインで、
法律事務所のロゴと共に、こう書かれていた。
「ファクタリング被害に遭った方へ」
「違法業者との契約を解除・返金交渉します」
SNSでも口コミが広がっており、
“法の専門家が味方してくれる”という安心感に満ちていた。
「相談だけなら無料」という文言に惹かれ、川井は申し込みフォームを開いた。
しかし、問い合わせ先のドメインをよく見ると、
法律事務所ではなく、“〇〇サポート株式会社”という別会社。
「法律相談窓口を運営」と記されていたが、
どこまでが弁護士の仕事で、どこからが業者の領域なのか、誰にも分からなかった。
■ 正義の裏にある「集客代行システム」
実はこの仕組み、
弁護士タイアップ型アフィリエイトと呼ばれる。
法律事務所と直接つながっているわけではなく、
“集客代行”を名乗る民間会社がリード(見込み客)を獲得し、
それを提携弁護士に紹介料という形で販売する。
「相談者が入力した内容は、ほとんどマーケティングデータ。
“悩み”が“商品”になってるんですよ」
こう語るのは、かつてその業界にいた広告関係者だ。
つまり、“被害者支援”の看板を掲げながら、
その裏では、再び“被害者”が広告の燃料にされていたのだ。
■ 「救済相談」から始まる二次被害
川井が受けた電話は、「弁護士事務所の提携窓口」を名乗るオペレーターからだった。
「契約書を送ってください。違法性を調べます」と言われ、
LINEで書類を提出すると、すぐに“成功報酬”の説明が届いた。
「返金が得られた場合は、回収額の50%を成功報酬として頂きます」
「ただし、交渉に伴う手数料として事前に5万円が必要です」
――まるでファクタリング業者と同じだ、と川井は思った。
「最初は正義の味方のように感じたけど、
話していくうちに“取り返してあげる”より“取れるところから取る”という空気でした」
結果として、返金交渉はうまくいかず、
紹介会社からの連絡も途絶えた。
弁護士とは一度も直接話していない。
届いたのは“相談料の請求書”だけだった。
■ 法律事務所は「広告塔」になっている
専門家の立場から、
こうした“弁護士タイアップ広告”を問題視する声は少なくない。
都内の弁護士 大谷翔一氏(仮名) は語る。
「最近は、弁護士本人が広告運営をしているわけではなく、
広告会社が『弁護士監修』『提携弁護士対応』と掲げて集客しています。
だが、その“提携”の実態は極めて曖昧で、
実際には弁護士法で禁止されている“非弁提携”に該当する可能性もある。」
“法の正義”を前面に出すことで信頼を得て、
その裏で“紹介料ビジネス”が動く。
もはや「救済」ではなく、再搾取のプラットフォームと化しているのだ。
■ ファクタリング被害は「金」から「信用」へ
ファクタリング被害は、金銭的損失だけでは終わらない。
多くの被害者が、
「もう誰も信じられない」「どこに相談しても結局カネだ」と口にする。
川井もその一人だった。
「お金より、“また騙された”という気持ちが一番つらい。
信頼できる人がいなくなった。」
その言葉の裏には、
被害の連鎖を食い物にする“構造的悪意”が潜んでいる。
■ 「正義」は誰のものか
弁護士タイアップ広告の世界では、
「法」というブランドそのものが広告商品になっている。
そして、それを支えるのは、
検索エンジン・広告代理店・メディア会社・ASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)。
正義は、いつの間にかクリック単価で取引されるようになった。
■ 編集後記
ファクタリング被害を救うはずの弁護士広告が、
次の被害を生む――
これは単なるモラルの問題ではなく、構造そのものの腐敗だ。
“被害者を集める仕組み”が、
“被害を再生産する装置”になっている。
救済の名を借りた“正義の外注”。
その代償は、被害者の信頼と尊厳だ。

