行政は知っている ― なぜファクタリングの闇を摘発できないのか

不存在債権は「詐欺か?」「不当原因給付か?」

Ⅰ. “グレーゾーン”という言い訳

 行政の担当者に尋ねると、決まって返ってくる言葉がある。
 ――「現行法では、直ちに違法とまでは言えない」。

 ファクタリング業者の実態が、実質的に高利貸しであることは、
 行政も警察も、そして金融庁も“分かっている”。
 だが、彼らは動けない。なぜか。

 答えは単純だ。法の定義が古く、制度が追いついていないからだ。
 貸金業法が想定しているのは、あくまで「貸付け」であり、
 ファクタリングのような「債権買取」を形式的に違法化する条文が存在しない。

 つまり、中身はヤミ金でも、形式が“債権取引”なら違法ではないというロジックだ。
 行政はこれを“グレーゾーン”と呼び、実質的には見て見ぬふりをしている。


Ⅱ. 被害届が出せないという構造的罠

 被害者は訴えたい。しかし、訴える手段がない。

 ファクタリング契約書には「買取」「譲渡」「通知義務」など、
 貸付契約とは異なる文言が並ぶ。
 警察に相談しても、「民事不介入」として門前払いを受ける。

 弁護士に依頼しても、「形式的には債権譲渡契約なので、刑事事件にはなりにくい」と説明される。
 民事で争えば、法廷で求められるのは“実質的貸付け”の立証だ。
 だが、そこに使われる契約書は、弁護士が見ても“合法的”に整っている。

 こうして、被害届が出せないヤミ金が生まれる。
 行政も警察も「違法とは言えない」として、指導止まり。
 その間にも、被害者の資金は次々と吸い上げられていく。


Ⅲ. 行政の「消極的合意」

 もうひとつの要因は、行政自身の利害関係にある。
 金融庁にとって、ファクタリングは“融資の代替手段”として、
 中小企業の資金繰りを支える存在でもある。

 つまり、制度的には必要悪なのだ。
 これを全面的に違法と断定すれば、
 多くの中小企業が資金難に陥り、政治的批判を受ける可能性がある。

 結果、行政は「形式上合法」という枠組みの中で、
 “悪質業者を個別に指導する”という消極的合意を選んでいる。

 それは、摘発よりも「監視」、断罪よりも「周知徹底」を優先する姿勢であり、
 制度の隙間で業者が増殖する温床にもなっている。


Ⅳ. 担当部署の分断と責任の所在

 さらに根深いのは、行政内部の縦割り構造だ。

 - 金融庁:貸金業法に基づく金融取引を監督
 - 消費者庁:景品表示法・特定商取引法による広告監視
 - 警察:詐欺や恐喝など刑事事件を担当

 ところがファクタリング業者は、このいずれにも完全には該当しない。
 広告の虚偽性はグレー、金融取引ではない、刑事事件にもならない。
 つまり、誰も管轄しない構造が生まれる。

 結果として、どの省庁も「所掌外」として責任を回避する。
 この行政の分断こそが、闇金的ファクタリングを野放しにしている最大の要因である。


Ⅴ. “知らなかった”では済まされない

 行政が「知らなかった」は通用しない。
 多くの自治体・中小企業支援機関が、
 ファクタリング業者からの広告依頼や共催セミナーを受け入れてきた事実がある。

 行政の公式サイトや商工会議所の案内ページに、
 「資金繰り支援セミナー(協賛:〇〇ファクタリング)」と記載されていた例もある。
 つまり、行政が知らず知らずのうちに、グレー業者の信用づけに利用されていたのだ。

 この構図は、広告代理店の問題よりもさらに深刻である。
 行政が“権威”を貸すことで、被害を拡大させてしまったケースも少なくない。


Ⅵ. 立法の遅れと「責任の回避」

 法整備の議論も進んでいない。
 金融庁は、ファクタリングを「金融商品ではない」として監督対象から外し、
 消費者庁は「事業者間取引は所管外」とする。
 国会でも、議題には上がるが、具体的な条文化には至らない。

 その背景には、ロビー活動と政界との“距離感”がある。
 ファクタリング関連業界団体の一部は、政治献金を通じて関係を構築し、
 制度改正のブレーキ役となっている。

 こうして、「いつか法改正されるだろう」と言いながら、
 誰も責任を取らないまま、5年・10年と放置されてきたのが現実だ。


Ⅶ. 結語 ― 「見て見ぬふり」という最大の共犯

 ファクタリングの闇は、業者だけが作ったものではない。
 行政、政治、広告、法制度――
 それぞれが少しずつ「見て見ぬふり」をした結果として、
 この構造が完成した。

 最初に犠牲になるのは、いつも中小事業者だ。
 資金に困り、藁にもすがる思いで利用した者が、
 法の盲点と行政の無策によって、さらに追い詰められる。

 「グレーゾーン」とは、行政の怠慢の別名である。
 本気で救済を考えるなら、もう“形式上合法”という逃げ道を断ち切るべきだ。
 ヤミ金的ファクタリングをヤミ金と呼べないこの国で、
 真の意味での金融正常化など、到底あり得ない。