第1話:善意の仮面 ― 支援を装うビジネスの真実
■ 倒産は「事件」ではなく「静かな死」だ
私は高橋雅也(仮名)。45歳で一度会社を潰した。
ただ、倒産と聞くと“劇的な破綻”を想像する人が多いが、実際はもっと静かで、もっと陰湿だ。
ある日、銀行が貸し渋る。取引先の支払いが遅れる。資金ショートが目前に迫る。
その一つひとつは些細だが、それらが積み重なり、気づけば自分の足場がなくなっている。
倒産は、爆発ではなく「静かな死」だ。
私は倒産後、深夜に天井を見つめながら、これからどう生きていくかを考えた。
銀行は手のひらを返し、取引先は離れ、家族にも迷惑をかけた。
公的制度を調べても、AIスコアだの信用情報だの、何をしても“再起への門”は堅く閉ざされている。
それでも、生きるためには、金がいる。再起の資金が必要なのだ。
そんな時に近づいてきたのが――
**「支援を装う”善意”のビジネス」**だった。
■ 救いの手を差し伸べてくるのは、いつも“善人”の顔をした悪魔だ
ある日、私のSNSに広告が流れてきた。
「倒産者専門!再起支援プログラム」
「金融ブラックでも即日支援」
「信用再建コンサルタントがマンツーマンで再起をサポート」
倒産直後の私は、まさに“すがる藁”を探していた。
人は弱ると、正常な判断ができなくなる。
この心理に付け込む者がいることを、当時の私は知らなかった。
連絡を取ると、対応したのは落ち着いた声の男性だった。
「私たちは中小企業の再建を支援しています。
高橋さんのような方を、これまでたくさん救ってきました」
丁寧で礼儀正しい。しかし今振り返れば、その言葉は“営業トーク”ではなく、
倒産者の心理を熟知した“プロの口上”だった。
■ 「善意の顔」をした契約書の正体
面談後、提示されたのは「再建支援契約書」。
その表紙には、金融や融資という言葉はなく、代わりにこう書かれていた。
「信用再生マネジメント業務契約」
内容は複雑で、金融庁も消費者庁も、どこも管轄できない“抜け道”のような文言がびっしり。
しかし、倒産直後の私は読み込む余裕などなかった。
だが今なら分かる。
この契約は、合法を装いながら、実質的に倒産者を縛り付ける仕組みだったのだ。
例えば、
- 成功報酬:調達額の30%
- 事務手数料:25万円
- コンサル管理費:月7万円
- 顧問契約更新費:年35万円
- 途中解約手数料:最低50万円
表面上は「コンサル料」であっても、実態は金利計算に近い。
そして、どこにも“貸金業”の文言はない。
つまり、完全に“合法の皮”をかぶったヤミ金構造である。
弁護士が見れば一発で気づくが、倒産直後の人間は冷静ではいられない。
「助けが必要」
「このままでは家族に顔向けできない」
「再起したい」
そうした弱さに徹底的に付け込んでくる。
■ これは支援ではない。これは収奪だ。
契約が進むにつれ、私は違和感を覚え始めた。
提出を求められる書類が異様に多く、しかも全て“個人情報の核心”に直結していた。
免許証、マイナンバー、家族構成、銀行口座、信用情報――。
この時、私はようやく気づく。
これは支援ではなく、“倒産者の丸裸化”だ。
彼らの目的は、支援ではない。
倒産者の弱点を徹底的に把握し、逃げられない状態にした上で、
合法の衣を着たまま、最大限の搾取を行うことである。
さらに恐ろしいのは、
こうしたビジネスが「摘発されない」ことだ。
■ 法の網からすり抜ける理由 ― 「名前」を変えるだけで合法になる世界
貸金業ではない。
金融ではない。
融資でもない。
そう言い張れば、法の対象から外れる。
彼らはファクタリング、コンサルティング、再生支援、保証料…
名称を変えるだけで、法規制から脱出できる。
この国の制度は、「実態」よりも「形式」を見る。
その隙間を利用した、合法を装う収奪モデルが横行している。
倒産者は法的に守られていない。
彼らは社会の「弱者」ではなく、「狙われる市場」なのだ。
■ 倒産した人間は、AIスコア社会で“半永久的に”信用を奪われる
さらに追い打ちをかけるのが、AIスコアだ。
倒産歴がある人間は、AIによる信用判定で自動的に低スコアとなり、
あらゆる公的支援や金融サービスから閉め出される。
つまり、倒産とは「事件」ではなく、
社会からの無期限追放処分に近い。
この現実が、支援を装う業者にとっては都合がいい。
制度が倒産者を救わないからこそ、
“善意の仮面”をかぶった彼らが入り込み、獲物を狩る。
■ 心が砕けていく過程
私は契約をキャンセルした。
しかし、彼らは言った。
「高橋さんのような方は、他に行き場はありませんよ」
「今キャンセルしたら、二度と復帰のチャンスは掴めません」
この言葉は、今でも胸に刺さっている。
倒産直後の不安定な心にとって、この言葉は“呪い”に等しい。
助けて欲しい。
何とか立ち直りたい。
家族に迷惑をかけたくない。
焦る心理を見透かした“誘導の言葉”なのだ。
私は、危うく契約してしまうところだった。
■ 善意の仮面を引き剥がすために必要なのは、制度ではなく「知識」だ
倒産という出来事は、人の判断力を奪う。
制度は助けてくれない。
社会は冷たい。
AIスコアは追い打ちをかける。
その絶望の隙間を狙って、
**「善意の仮面をかぶった収奪ビジネス」**は近づいてくる。
私はその中で、最後の一線で踏みとどまった。
そして気づいた。
倒産者が身を守るために必要なのは、
制度や支援ではなく、“知識と疑いの目”である。
善意を装う全てのものを疑え。
補助金でも、業者でも、コンサルでも、再生支援でも。
倒産者に向けたビジネスは、
善意の皮をかぶった獣であることが多い。
■ そして私は、苦い経験をあえて公開する
私の体験は、恥ずべきものかもしれない。
だが、同じ地獄に落ちる人を減らすため、私はあえて公開する。
倒産の痛みよりも、
その後に近づいてくる“善意を装った悪”の方が、よほど恐ろしい。
これは私の物語の始まりにすぎない。
ここから先は、さらに深い闇がある。
倒産者がなぜ利用されるのか、
制度はなぜ彼らを救わないのか、
AIスコア社会の闇とは何か。
それらを、次回以降、包み隠さず語っていこうと思う。

