【寄稿】“AI審査の光と影” 第6回(最終回)

ファクタリングの違法性と契約について

倒産者の再起と制度設計 ― 信用社会を取り戻すために


■ 1. 再起できない社会は、挑戦を殺す社会である

 高橋雅也(仮名)は倒産を経験し、AI審査にもはじかれ、危険金融にも囲まれた。
 しかし彼は最終的に再起の道をつくり、その過程で痛感したのは次の一点である。

「この社会は、失敗した者に再挑戦させる仕組みが驚くほど欠けている」

 そしてその欠如こそが、合法ヤミ金のような“灰色の市場”を肥大化させ、
 AI審査の偏りを加速させ、挑戦者を減らし、日本全体の活力さえ奪っている。

 本稿最終回では、倒産者が実際にどう再起できるのか、
 そして社会として何を変えていくべきかを、構造レベルで提案する。


■ 2. 「信用喪失」からの回復は、制度上ほぼ想定されていない

 まず押さえるべき根本問題がある。

  • 一度の破産・倒産で、AIスコアは急落する
  • 信用情報には一定期間“負の履歴”が残り続ける
  • 人間が評価する融資でも、担当者の心理的抵抗が強い
  • 公的支援制度は“成功率の高い事業”を優先して配分される

 つまり、現在の仕組みは**「失敗した人間を再評価するプロセス」を想定していない**。
 だからこそ、倒産者は灰色金融のターゲットになり、
 その市場が“合法の皮をかぶった搾取”として成立してしまう。


■ 3. AI審査が作る「過去に引きずられる未来」

 高橋のAIスコアは、倒産後わずか数週間でゼロ近くまで落ち、
 その結果として以下の現象が起きた。

  • 住宅ローン審査の78%が即時否決
  • クレジットカード更新不可
  • フリーランス向け与信枠も縮小
  • 事業用の小口融資は完全に不可

 しかし彼は、倒産後に新規事業を手掛け、
 黒字化し、取引先も増やしたにもかかわらず、
 AIスコアはほとんど改善しなかった。

 AIは「過去の履歴」を重視するため、
 再起を目指す者ほどスコアが固定化されるという逆転現象が起きる。


■ 4. 高橋が突破した“再起のロジック”

 では、どうやって現実の壁を超えたのか。
 高橋が採った方法は、シンプルだが本質的だ。


①“スコアの外側にある”人間評価ルートを開拓

  • 地元の信用金庫
  • 商工会議所
  • 小規模事業者持続化補助金
  • 地銀の担当者との長期的コミュニケーション

 AIが拒むなら、AIが見ていない窓口を使う
 これは現在の日本における最も現実的な打開策である。


②「事業の再発明」を文書化する

 倒産した原因、改善策、再挑戦の準備を
 第三者が読んでも理解できる形にまとめた。

  • 失敗の要因分析
  • 具体的な改善計画
  • 顧客獲得戦略
  • キャッシュフロー予測

 これを提出すると、地元金融機関の評価は一変する。
 AIには出来ない「意欲の評価」がここに生まれる。


③“負の履歴”より“行動の履歴”を積み上げる

 月次の業績報告を継続して提出し、
 信金担当者からこう言われた。

「あなたは倒産した経営者ではなく、再起に向けて行動し続けている経営者です。」

 この“人間の対面評価”が、最初の小口融資につながった。


④ その後は好循環が生まれる

  1. 小口融資の返済 → 信頼がつく
  2. 信頼がつく → 新しい信用が生まれる
  3. 新しい信用 → 新規事業が回る
  4. 業績が安定 → AIスコアも時間差で回復

 スコアは後からついてくる。
 再起とは、信用の“第二創業”である。


■ 5. 構造を変えるための制度設計

 個人の努力だけでは限界がある。
 社会として以下の制度を整える必要がある。


■ 提案①:倒産者の「リスタート信用スコア」の創設

 過去の失敗ではなく、再起後の行動を評価するスコア。
 項目は以下のようなものだ。

  • 業績の継続報告
  • 債務整理後の計画的返済
  • 再挑戦の教育・研修受講
  • 新規雇用・地域貢献

 “挑戦を続ける者を評価する”仕組みが必要だ。


■ 提案②:合法ヤミ金の“擬似コンサル”を規制する新法

 現状、彼らの契約は法の抜け穴の中にある。
 次のような基準が必要だ。

  • 成果報酬の上限
  • 違約金の上限
  • 情報収集の範囲制限
  • 第三者機関による契約審査

 これにより、倒産者は「安全な選択肢」を確保できる。


■ 提案③:AI審査モデルに「第二評価プロセス」を義務化

 AIが否決した場合、必ず人間が再評価する。
 これは欧州で導入され始めている方式だ。

  • AI否決 → 人が見る
  • 人の評価 → AIに学習フィードバック

 この循環により、AIは「失敗者を一括否定するモデル」から脱却できる。


■ 提案④:倒産者向け“再起専門家チーム”の創設

 弁護士、税理士、中小企業診断士、金融機関が連携し、
 倒産者に次の支援を提供する。

  • 法的整理の説明
  • 再起プランの作成
  • 金融機関への交渉サポート
  • 心理的ケア

 “倒産した瞬間から孤立する”構造を変える必要がある。


■ 6. 日本は「失敗を許す社会」に変われるか

 高橋は再起に成功し、いまでは数名の従業員を抱える小さな会社を運営している。
 彼が最後に語った言葉は、すべての挑戦者に向けられている。

「倒産したとき、日本は本当に冷たい社会だと思いました。
でも、再起できた今は、支えてくれた人たちのおかげでここにいます。
失敗した人を“ゼロ”として扱わない社会こそ、本当に強い社会だと思うんです。」

 倒産者が再び立ち上がることは、本人だけでなく、社会にとっても利益になる。
 挑戦する人が増え、事業が生まれ、雇用が生まれ、地域の経済が活性化する。

 そして何より、“失敗=人格否定”という日本の古い文化を変えるきっかけにもなる。


■ 7. シリーズを締めくくるにあたって

 AI審査の普及は止まらない。
 だが、その便利さの裏で、取りこぼされる人々が確実にいる。

 このシリーズで描いてきたように、

  • AIスコアの偏り
  • 合法ヤミ金の蔓延
  • 倒産者の孤立
  • 再起制度の貧弱さ

 これらはすべて“未来の信用システム”の重大な課題である。

失敗しても、やり直せる社会。
過去ではなく、未来の行動で評価される社会。

 この理念こそが、AI時代における最も重要な価値ではないか。