■ 「消費者」と「事業者」の二分法の限界
日本の法制度は、長らく取引主体を「消費者」と「事業者」に二分してきた。
消費者は保護対象。事業者は自己責任。
この単純な線引きは、制度設計上の分かりやすさを優先した結果である。
。だが現実には、この二分法はもはや機能していない。
従業員ゼロの個人事業主と大企業が、同じ「事業者」として扱われる制度は、情報格差と交渉力の差を完全に無視している。
■ 「準消費者」概念とは何か
準消費者とは、形式上は事業者であっても、
情報量、交渉力、判断能力において消費者と同等、もしくはそれ以下の立場に置かれる主体を指す概念である。
。欧州では、零細事業者やフリーランスを、一定の場面で消費者保護に準じて扱う制度設計が進んでいる。
これは事業活動を否定するものではなく、「情報弱者としての側面」を認める発想である。
■ 金融分野だけが取り残されている理由
日本でも、建設業、下請取引、労働類似契約などでは、すでに事業者保護的な制度が導入されている。
しかし金融分野だけは、いまだに「事業者=理解しているはず」という前提が色濃く残っている。
。金融は専門性が高く、説明が複雑であるにもかかわらず、
事業者向けであるという理由だけで、広告規制や情報開示義務が緩く扱われてきた。
これは論理的にも逆転している。
■ ファクタリングが示した「準消費者性」
2社間ファクタリングの利用者像を見ると、この問題は明確になる。
利用者の多くは、中小零細事業者、個人事業主、フリーランスである。
。彼らは、
契約書を精査する余裕もなく。
年利換算という概念を知らないまま。
「合法」「融資ではない」「即日」という広告文言だけで判断を迫られる。
。これは、典型的な消費者取引と本質的に変わらない。
形式が事業取引であるという理由だけで、保護対象外とする合理性はすでに失われている。
■ 導入は法的に可能か
結論から言えば、導入は可能である。
しかも、全面的な法改正を必要とするものではない。
。例えば、
一定規模以下の事業者。
個人事業主・フリーランス。
反復継続性のない単発金融取引。
こうした条件を満たす場合に限り、
広告表示義務、重要事項説明、誤認表示規制を消費者契約に準じて適用する。
これは新概念ではなく、既存制度の延長線上にある。
■ 行政が恐れているもの
行政が準消費者概念の導入に消極的なのは、技術的困難ではない。
最大の理由は、「どこまで保護するのか」という線引き責任を負うことへの忌避である。
。一度認めれば、
ファクタリングだけでなく。
ノンバンク融資。
保証契約。
リース。
次々に適用範囲が広がる。
行政はこの波及を恐れ、結果として問題を先送りしてきた。
■ だが、放置のコストはすでに高すぎる
準消費者概念を導入しないという選択にも、明確なコストが存在する。
それが、
誤情報広告の氾濫。
AIによる誤誘導。
資金繰り破綻の連鎖。
である。
。これらの社会的損失は、最終的に公的支援や社会保障に跳ね返る。
つまり、保護しなかったツケは、別の形で社会全体が支払っている。
■ 準消費者概念は「規制強化」ではない
重要なのは、これは規制強化ではなく、制度の現実化だという点である。
市場の実態に合わせて、保護の射程を調整する。
それだけの話である。
。中小零細事業者を常に守れという話ではない。
だが、情報弱者として扱うべき局面が存在することを、制度が認めなければならない。
■ ファクタリング問題は分岐点である
ファクタリング問題は、
「事業者だから自己責任」という前提が、もはや通用しないことを突きつけている。
。ここで準消費者概念を導入できなければ、
AIと広告が支配する金融市場において、
事業者は永遠に無防備なまま放置される。
。制度が現実に追いつくのか。
それとも、前提が崩れたまま自己責任を唱え続けるのか。
いま、金融行政の姿勢そのものが問われている。

