前回は、二社間ファクタリングが社会悪として機能している構造について述べた。
今回は、その構造がどのようなかたちで現場に影響を与えているのかを、具体的な被害事例とともに考えていく。
二社間ファクタリングは、宣伝の上では「資金繰り改善ツール」と説明される。
しかし、実際の現場で起きていることはそれとはまったく逆である。
資金繰りは改善するどころか、静かに悪化していく。
事例① 毎月利用が前提になり、現金が残らなくなる
ある建設系下請企業では、入金サイトが長く、材料費や外注費の支払いが先行する状況が続いていた。
資金繰りに一時的な谷ができたとき、二社間ファクタリングを利用した。
最初の利用では「助かった」と感じた。支払いが期限内に行えたからである。
しかし、翌月になると予想外の事態が起きた。
前倒しした売掛金がすでに消えているため、月初の残高が大幅に不足した。
結局、また別の売掛金を前倒しするしかなくなり、二度目の利用に至った。
この流れはそこで止まらなかった。
三か月、六か月、一年と繰り返すなかで、売上が上がっても手元資金が残らない状態が常態化した。
帳簿上は黒字であっても、資金は常に不足している。
経営者はやめどきを完全に見失った。
事例② 税金と社会保険料が払えなくなる
別の事例では、二社間ファクタリングの手数料負担が費用を圧迫し、資金の優先順位が逆転した。
手数料の支払いと仕入れ代金の支払いが先に立ち、税金や社会保険料が後回しになる。
最初は数か月の滞納で済んでいたが、やがて督促状が届き、延滞金が積み上がり、経営者の心理的負担は急激に増した。
税務署との分納交渉を行ったが、二社間ファクタリングの利用が続いている限り、資金余力は回復しない。
結局、分納も滞り、差押えに至った。
ここまで来ると事業継続そのものが危うくなる。
資金調達どころか、事業を細らせるための取引に変質していた。
事例③ 多重譲渡トラブルで訴訟に巻き込まれる
さらに深刻なのは、多重譲渡に関するトラブルである。
売掛金がすでに別の会社に譲渡されていることを知らずに、業者が二重に買い取るケースがある。
この場合、業者は「だまされた」と主張し、詐欺を疑う。
実務では、売掛先からの入金がどこに帰属するかを巡って紛争になる。
経営者は資金繰りに追われた結果、契約内容を十分理解しないままサインしていることが多い。
その弱みを突くように、強い言葉で責任追及が行われる。
ここで問われるのは法技術論だけではない。
追い込まれた中小企業が、複雑な契約構造の中でさらに不利な立場に置かれる現実である。
事例④ 「粉飾決算」に踏み込んでしまう心理的圧迫
二社間ファクタリングを繰り返す企業の中には、資金繰りの苦しさから数字を操作し始める例もある。
本来は回収見込みが不確実な売掛金を過大計上する、締め日を無理に動かす、架空売上を混ぜるなどの行為である。
これは単なるミスではない。
精神的に追い込まれた状態で「少しだけ」「今回だけ」という判断が重なり、気がつけば粉飾の領域に足を踏み入れている。
二社間ファクタリングの負担と圧力が、その背中を押している。
最終的には、信用が失われ、取引停止、融資打ち切り、破産に至る。
事業そのものだけでなく、従業員の生活にも影響が及ぶ。
共通点は「最初は助かった」という実感から始まること
これらの事例には共通点がある。
それは、最初の利用時点では、経営者が確かに「助かった」と感じているという点である。
しかし、その安堵感が落とし穴になる。
前倒しした将来資金が消え、翌月以降に資金不足が連鎖する。
手数料負担が利益を圧迫し、冷静な経営判断が機能しなくなる。
結果として、依存状態が固定化し、撤退の選択肢が見えなくなる。
被害は「自己責任」で片づけられない
二社間ファクタリングの被害は、単なる判断ミスではない。
制度設計の歪みが作り出した構造的被害である。
形式は債権譲渡で、実質は高コスト資金融通。
規制の外側に位置することで、弱い立場の企業に過大な負担を強いる。
この構造が温存される限り、被害事例は今後も増える。
したがって、個々の経営者だけを責めても問題は解決しない。
社会全体が是正を求めるべき対象である。

