この市場は、実は“終わらせたい側”がほとんどいない

ファクタリングのトラブル

2社間ファクタリングがここまで長く生き延びている最大の理由は、法律の抜け穴でも、悪質業者の巧妙さでもない。もっと単純で、もっと厄介な理由がある。

それは、この市場を本気で終わらせたいと思っている主体が、ほとんど存在しないという現実だ。

誰もが内心では「おかしい」と分かっている。
誰もが表向きには「推奨しない」と言っている。
それでも誰も止めに動かない。

この市場は、そういう“全員が少しずつ得をしている不健全な均衡”の上に成り立っている。

業者は言うまでもなく、終わらせる理由がない

まず、2社間ファクタリング業者にとって、この市場は極めて都合がいい。

貸金業登録は不要。
上限金利規制も適用されない。
審査基準は不透明でも成立する。
トラブルが起きても「売掛債権の売買です」で押し切れる。

これで手数料が年利換算で数十%から、ひどい場合は100%超という世界だ。これほど“割のいい商売”を、自主的に畳む理由があるはずがない。

しかも、利用者は資金繰りに追い込まれた中小企業だ。文句を言える立場にない。裁判を起こす余力もない。泣き寝入りが前提で成り立つ構造になっている。

業者側にとって、この市場は「グレー」ではない。「実質ノーリスク・ハイリターン」だ。終わらせたいどころか、むしろ今後も広げたい側の筆頭である。

比較サイトと広告代理店は、静かに“最大の受益者”になっている

次に見落とされがちだが、実は極めて重要なのが、比較サイトと広告代理店の存在だ。

2社間ファクタリング市場は、もはや業者単体では成立していない。検索広告、SEO、比較サイト、ランキング記事、口コミ風ページ、体験談風コンテンツ。これらの送客インフラがなければ、新規顧客は一気に枯れる。

そして、この送客インフラを握っているのが、広告代理店とメディア運営会社だ。

彼らは「金融商品を売っている」自覚すらない。ただ「広告枠を売っている」だけだという建前を取っている。しかし実態は、手数料が異常に高い金融商品の販路を独占している状態に近い。

・1件送客で数万円〜十数万円
・成約報酬は数十万円規模
・クレームは業者に丸投げ
・法的責任はほぼゼロ

この構造の中で、比較サイト側が「この市場、そろそろやめませんか」と言い出す理由は何一つない。むしろ、規制される前に、できるだけ刈り取っておこうという動機の方が自然だ。

彼らもまた、この市場を終わらせたい側ではなく、延命させたい側にいる。

金融機関は「潰すコスト」の方が高すぎる

では、銀行やノンバンクはどうか。彼らこそが、この市場を止める力を持っていそうに見える。

だが現実は逆だ。

金融機関は、2社間ファクタリングを公に推奨することはない。しかし同時に、本気で潰しにかかる動機もほとんど持っていない。

理由は単純で、この市場を潰すと、自分たちの仕事が増えるだけだからだ。

・資金繰りが詰まった中小企業が一気に窓口に来る
・本来なら断るしかない融資相談が激増する
・不良債権リスクを抱え込む可能性が跳ね上がる
・「なぜ助けないんだ」という批判を正面から受けることになる

2社間ファクタリングは、銀行にとって「表に出さない不良債権処理装置」みたいなものだ。直接貸さずに済む。責任も取らなくていい。潰すより、黙って放置している方が圧倒的に合理的なのである。

士業は「関わらない方が安全」という結論に達している

弁護士、税理士、司法書士といった士業はどうか。

本来なら、この市場の異常さを一番よく分かっているのは彼らのはずだ。実質貸付、過剰手数料、契約書の欺瞞性、トラブルの多さ。現場を知れば知るほど、違和感しかない世界だ。

それでも、多くの士業は沈黙している。

なぜか。

理由ははっきりしている。割に合わないからだ。

・トラブル案件は依頼者に金がない
・回収できない可能性が高い
・業者側と揉めると面倒
・業界から睨まれるリスクもある
・それで得られる報酬は数万円レベル

正義感だけで突っ込むには、コストが高すぎる。だから多くの士業は、「触らない」「深追いしない」「一般論だけ語る」という最も安全なポジションに落ち着いている。

彼らもまた、この市場を積極的に終わらせたい側ではない

行政と政治は「何もしない方が楽」な構造にいる

最後に、行政と政治だ。

ここが一番の問題点でもある。

2社間ファクタリングを規制しようと思えば、制度設計はいくらでもできる。実質貸付の定義を広げる。上限手数料を設ける。広告表現を縛る。登録制にする。やれることはいくらでもある。

それでも、なぜ何も起きないのか。

答えは簡単で、やらない方が政治的に楽だからだ。

・規制すれば「中小企業の資金繰りを潰すな」と叩かれる
・業界団体や広告業界からロビーが入る
・被害者は声を上げにくく、票にもならない
・成果が出るまで時間がかかる

つまり、規制しても得をする人がほとんどいない。一方で、規制しないことで困る人たちも、可視化されにくい。

この状況で、政治家や官僚が「よし、今すぐ潰そう」と動くインセンティブは極めて弱い。

結論 この市場は“全員が見て見ぬふり”で延命されている

ここまで見てきた通り、2社間ファクタリング市場には、終わらせたい側がほとんど存在しない。

業者は儲かるから終わらせたくない。
比較サイトと広告代理店は稼げるから終わらせたくない。
金融機関は面倒が増えるから終わらせたくない。
士業は割に合わないから終わらせたくない。
行政と政治は得にならないから終わらせたくない。

つまり、この市場は**「誰かが悪いから」続いているのではない**。
「誰も本気で止めに行かないから」続いている

これが、2社間ファクタリングという市場の、いちばん陰湿で、いちばん現実的な正体だ。

そして、この構造が崩れない限り、この市場は終わらない。
自然消滅もしない。
倫理の問題としても扱われない。

終わるとしたら、それは「誰かが損を覚悟で止めに行く」瞬間が来た時だけだ。

だが現時点では、その役を引き受けたい主体は、ほぼ存在していない。