まだ一件も起きていない、という異常な静けさ
まず最初に、はっきり確認しておかなければならない事実があります。
現時点で、2社間ファクタリングについて過払い返還が裁判で認められた確定事例は、まだ一件も存在していません。
違法認定も、包括的な最高裁判断も出ていない。行政処分も、業界全体を否定する形では行われていない。だから市場は今日も平然と回り続けています。
しかし、この「何も起きていない状態」こそが、金融機関にとって最大の錯覚です。
サラ金問題も、最初から過払い返還が連鎖していたわけではありません。最高裁が一度評価を変えた瞬間、二十年分の取引が一気に逆流しました。
2社間ファクタリングは、今まさにその直前の静寂の中にあります。
なぜ一件も起きていないのか
過払い返還がまだ発生していない理由は、制度が健全だからではありません。
理由は単純です。
法的評価が、まだ確定していないからです。
2社間ファクタリングは、形式上は債権売買として構成され、契約書の表面だけを見れば貸金ではありません。裁判所が正面から「これは実質貸金である」と断じた判決が、まだ積み上がっていない。
つまり、返還請求の法的な入口が、まだ開いていないだけです。
しかし、その入口は、ある一件の判決で突然開きます。
違法認定が出た瞬間に起きる評価の反転
もし、ある事件で裁判所が次のように判断したとします。
・2社間ファクタリングは実質的に金銭消費貸借である
・手数料は利息に該当する
・利息制限法を超える部分は無効である
この三点が一度でも明示されれば、過払い返還の法理は一気に完成します。
ここから先は、業界の説明や契約書の文言はほとんど意味を持ちません。
実質で判断するという原則が動き出した瞬間、過去のすべての取引が、同じ基準で再評価されるからです。
返還請求は業者で止まらない
ここで最大の問題が生じます。
2社間ファクタリングの多くは、業者の自己資金で完結していません。背後には、金融機関系ファンド、投資ビークル、銀行融資が必ず組み込まれています。
違法認定が出た場合、返還請求の相手は契約書名義の業者だけでは済みません。
実質的に資金を出し、回収を支配していた主体、債権を買い取り、利回りを享受していた主体、スキーム設計に関与していた主体が、順番に当事者として浮上します。
ここで初めて、ファンドと銀行が表舞台に引きずり出されます。
サラ金問題と同じ構図です。名義ではなく実質で責任を問われ、最終的に金融機関本体が返還義務を負った例はいくつもあります。
時効はほとんど防波堤にならない
金融機関が最後に期待するのが時効ですが、ここにも過度な楽観は通用しません。
過払い返還の消滅時効は原則十年です。しかし、違法性が長年隠され、権利行使が事実上不可能だった場合、起算点が後ろ倒しされる余地があります。
2社間ファクタリング市場が急拡大したのは、ここ十年ほどです。つまり、市場のほぼ全期間が射程圏内に残っているということになります。
市場規模が意味する「爆発力」
この問題が恐ろしいのは、件数ではなく規模です。
表面利回りが年率数十パーセントに達する取引が、数兆円規模で積み上がっています。これが一斉に違法利息と評価されれば、返還額は手数料返還では終わりません。
元本相殺、過払い利息、遅延損害金まで含めれば、返還総額は数千億円規模に達する可能性があります。
この損失を、現場の業者だけで吸収できるはずがありません。
ファンド破綻から銀行の経営問題へ
返還請求が現実化すれば、最初に崩れるのは債権を大量保有しているファンドです。
基準価額の急落、投資家解約、回収不能債権の山。ここで必ず銀行に波及します。
出資、融資、保証、管理関与。いずれか一つでも関与していれば、引当金と資本比率の問題として、銀行自身の経営を直撃します。
さらに、スキーム設計に深く関与していた場合、単なる投資損失では済まず、直接の返還義務にまで及ぶ可能性すらあります。
結論 何も起きていない今こそが、最大の危険地帯である
過払い返還は、まだ一件も起きていません。
しかし、それは安全だからではありません。
まだ引き金が引かれていないだけです。
一件の違法認定、一つの最高裁判断、それだけで市場全体の法的評価は一夜にして反転します。
その瞬間、静かに積み上がってきた取引は、過払い返還という形で一斉に逆流し、ファンドを直撃し、銀行を巻き込み、金融システムの内部で爆発します。
2社間ファクタリングは、いま合法の顔をしたまま、
巨大な未処理債務を市場の奥底に埋め込んでいる金融装置にほかなりません。

