2社間ファクタリングと金融庁検査―本来、何が問われるべきなのか

ファクタリングの違法性と契約について

2社間ファクタリングをめぐる問題は、業者の違法性や裁判の行方だけでは終わりません。この市場に資金を供給し、商品として成立させてきた金融機関に対して、監督当局は何を見てきたのか、そして何を見落としてきたのか。その責任の所在はいま、静かに問われ始めています。

形式論にとどまってきた金融庁検査

これまでの金融庁検査は、2社間ファクタリングに対して極めて間接的な関与にとどまってきました。銀行検査では、銀行本体の与信や投融資が中心であり、配下ファンドの投資先の実態までは、ほとんど踏み込まれていません。証券会社検査でも、販売手続や書面交付の適正性が主な対象で、スキーム全体の合法性が正面から問われることは、ほぼありませんでした。

なぜこうした状況が続いてきたのかといえば、検査の建付けそのものに原因があります。銀行が保有しているのはファンド持分や社債であり、ファクタリング債権そのものではない。証券会社が扱っているのは投資商品であって、貸付ではない。形式上、誰も貸金業を営んでいない以上、検査は常に「投融資管理」「販売管理」という枠の中で完結してきたのです。

しかし、この形式論こそが、最大の問題でした。

本来問われるべき第一の論点 実態は貸金ではないのか

金融庁検査で本来最初に問われるべきだったのは、極めて単純な一点です。この取引は、本当に債権譲渡なのか、それとも実態は貸金ではないのか。

2社間ファクタリングでは、業者が資金を先渡しし、一定期間後に額面全額を回収する構造が一般的です。回収不能リスクを形式的に負っているように見せながら、実際には償還保証や買戻し条項、取引継続条件などによって、ほぼ確実に資金が回収される仕組みが組み込まれている例も少なくありません。

もし、回収リスクを実質的に負っていないのであれば、それは債権買取ではなく、単なる資金の貸付です。

この点を、ファンドの投資先として、銀行持株会社として、証券会社の販売商品として、どこまで検証してきたのか。本来、検査の最初の関門で問われるべき論点でした。

本来問われるべき第二の論点 違法認定時の連鎖リスクをどう評価していたのか

次に問われるべきは、違法認定が出た場合の影響を、金融機関がどこまで想定していたのかという点です。

実質貸金認定が出れば、取引自体が無効とされ、過払い返還請求が一斉に発生する可能性があります。業者は資金繰りに詰まり、破綻に追い込まれるでしょう。ファンドは保有資産の評価を切り下げ、解約請求に耐えきれず清算に入るかもしれません。その損失は、最終的に銀行持株会社の連結決算に直撃します。

こうしたシナリオは、決して空想ではありません。過去の消費者金融問題やリース取引、投資スキーム崩壊の歴史を見れば、十分に現実的な連鎖です。

にもかかわらず、金融庁検査で、この連鎖リスクが正面から議論された形跡は、ほとんど見当たりません。

「違法とされた事例はない」
「弁護士の意見書を取得している」

この程度の説明で、本当に監督責任を果たしたと言えるのでしょうか。

本来問われるべき第三の論点 持株会社はどこまで把握していたのか

さらに重大なのは、銀行持株会社の関与です。

2社間ファクタリング市場に資金を供給している多くのファンドは、銀行持株会社の連結子会社です。その商品を販売している証券会社も、同じグループに属しています。

であれば、持株会社は、グループとしてこの市場にどれほど深く関与しているのか、どのような法的リスクを抱えているのかを、当然把握していなければなりません。

本来、金融庁検査で問われるべきだったのは、個々の子会社の運用管理ではなく、持株会社としての統括責任です。

誰がこの投資を承認したのか。
リスク評価はどこまで行われていたのか。
なぜ是正措置を取らなかったのか。

これらは、ガバナンス検査の中核論点であるはずでした。

本来問われるべき第四の論点 証券会社の販売行為は適合していたのか

検査でほとんど触れられてこなかったもう一つの重要点が、証券会社の販売責任です。

2社間ファクタリング関連商品は、将来違法と認定される可能性が現実的に存在する、極めて特殊な法的リスク商品です。本来、販売対象は高度な専門投資家に厳格に限定されるべき性質のものでした。

それにもかかわらず、実際には、地方の事業会社や運用目的の法人、場合によっては富裕層個人にまで広く販売されてきました。

金融庁検査では、書面交付や説明資料の体裁は確認されます。しかし、その顧客に本当にこの商品が適合していたのか、販売そのものが不適切ではなかったのかという核心部分は、ほとんど問われてきませんでした。

形式的検査の限界と、これから問われる責任

ここまで見てきた通り、2社間ファクタリングをめぐる金融庁検査は、形式論の枠から一歩も出ていませんでした。

貸金かどうかは問わない。
連鎖損失は想定しない。
持株会社の統括責任には踏み込まない。
販売の適合性も深掘りしない。

この結果、巨大な法的リスクを内包した市場が、ほぼ無監督の状態で拡大してきたのです。

しかし、もし今後、実質貸金認定や過払い返還を認める司法判断が一つでも出れば、状況は一変します。

そのとき、問われるのは業者だけではありません。
「なぜ当局は、これを見過ごしてきたのか」
「なぜ検査で止めなかったのか」

この問いは、金融機関だけでなく、監督当局自身にも向けられることになります。

2社間ファクタリング問題は、単なる新興金融スキームの問題ではありません。
日本の金融監督の実効性そのものを問う問題へと、いま、静かに移行しつつあります。