2社間ファクタリングの違法認定が現実のものになったとき、市場の崩壊よりも先に注目されるのは、制度の背後にあった人の流れです。
なぜこの市場は、これほど長期間、実質貸金の疑いを抱えながら存続できたのか。その理由を制度論だけで説明することはできません。必ず問われるのが、天下り、顧問弁護士、外郭団体という「見えない支柱」の存在です。
ここから先は、金融行政の中でも、最も外部に出したくない構造に踏み込む話になります。
天下りは直接業者に行かない、必ず「ワンクッション」置かれる
まず確認しておくべきなのは、天下りの典型的な経路です。
金融庁幹部や検査部門の経験者が、いきなり2社間ファクタリング業者の役員に就任することは、ほとんどありません。露骨すぎて、世間の目に耐えないからです。
代わりに使われるのが、ファンド、コンサル会社、業界団体、外郭的な一般社団法人といった「緩衝地帯」です。
表向きは、金融アドバイザー。
制度研究の有識者。
コンプライアンス顧問。
しかし、その実態は、行政内部の論理を知り尽くした調整役です。
業者は、この人物を通じて、どこまで踏み込めば危険か、どこまでは黙認されるかを学びます。行政側は、公式ルートでは言えない情報を、非公式に伝えることができる。
この間接的な天下り構造こそが、2社間ファクタリング市場を安定させてきた最大の要因の一つです。
顧問弁護士は、法的防波堤であると同時に「行政との翻訳者」である
次に重要なのが、顧問弁護士の役割です。
2社間ファクタリング業者の多くは、金融庁出身者と深い関係を持つ法律事務所を顧問に抱えています。元検事、元裁判官、元金融庁法務担当といった経歴を持つ弁護士が並ぶのは、偶然ではありません。
彼らの最大の価値は、単なる法解釈ではなく、「行政がどこで止めるか」を知っている点にあります。
この契約書の文言なら危険か。
この手数料率なら見逃されるか。
このスキームなら検査は来ないか。
こうした問いに対して、顧問弁護士は、法律だけでなく、行政実務の感覚を踏まえて答えます。
結果として生まれるのは、違法すれすれではなく、「行政が動かないぎりぎりのライン」を狙った商品設計です。
ここで問題になるのは、顧問弁護士が、単なる法的助言者ではなく、実質的に脱法スキームの設計者になっていた可能性です。
外郭団体と業界団体は、「規制の緩衝材」として機能していた
さらに重要なのが、外郭団体と業界団体の存在です。
2社間ファクタリングの周辺には、実態のよく分からない一般社団法人、研究会、任意団体が数多く作られてきました。表向きは、健全な市場育成、利用企業の保護、ガイドライン策定などを掲げています。
しかし、これらの団体の役員名簿をたどると、必ず元官僚、元検査官、元金融機関幹部の名前が並びます。
こうした団体の最大の役割は、行政との間に「公式な対話窓口」を作ることです。
業者個別では危険な要望も、「業界全体の意見」として提出すれば、受け取る側の心理的抵抗は大きく下がります。行政側も、「業界団体からの要望」という形であれば、検討課題として正式に扱いやすくなります。
この構造の中で、本来、規制される側である業界が、事実上、規制の設計に関与していくのです。
最も危険なのは、「誰も違法とは言っていない」状態が意図的に作られる点である
この三者構造の最大の特徴は、誰一人として、正面から違法を肯定も否定もしない点にあります。
検査官は、明確な違法とは言わない。
顧問弁護士は、「現時点では直ちに違法とは言えない」と言う。
業界団体は、「健全な市場育成のために努力している」と言う。
この三つが揃うことで、市場には一種の免責空間が生まれます。
違法と断定する者はいない。
しかし、安全だと保証する者もいない。
それでも、行政が動かず、検査も来ず、商品が売れ続けている以上、「事実上、問題ない」という空気だけが蓄積されていく。
この空気こそが、脱法金融市場を最も長く支えてきた最大の要因です。
違法認定後、最初に崩れるのは「人のネットワーク」である
違法認定が出た瞬間、最初に切られるのは、契約でも制度でもありません。人です。
業者の顧問弁護士は、真っ先に契約を解消します。
外郭団体の役員は、次々と辞任します。
天下り人事は、静かに解消されます。
そして、全員が同じ説明を始めます。
「形式的な助言しかしていない」
「個別案件には関与していない」
「違法性までは認識していなかった」
しかし、その主張が通用するかどうかは、過去の記録次第です。
打合せ記録。
メール。
意見書の下書き。
契約書の修正履歴。
これらの中に、「貸金」「危険」「放置はまずい」といった言葉が一つでも残っていれば、話は一気に変わります。
最後に問われるのは、「誰が制度を支えていたのか」である
2社間ファクタリングの本当の問題は、単独の違法業者ではありません。
行政。
業界。
法律家。
外郭団体。
この四者が、明確な共謀をしないまま、結果として脱法市場を育ててしまった構造そのものです。
違法認定後に本当に恐れられているのは、業者の摘発ではありません。
この市場を成立させてきた人のネットワークが、どこまで可視化されるのか。
そこに、元幹部や元検査官、著名弁護士の名前がどれだけ並ぶのか。
それこそが、金融行政にとって、最大の爆弾になるのです。

