2社間ファクタリングを巡る違法性問題が、行政責任や刑事責任の領域に近づいたとき、最後に事態を決定的に動かすのは、往々にして内部告発である。外部の被害者や記者がいくら疑念を投げかけても、監督当局の内部から証拠が出てこない限り、構造は崩れない。しかし同時に、内部告発は万能ではない。どの段階で、どこに、どの形で出されたかによって、その効力は劇的に変わる。
内部告発は「早すぎても」「遅すぎても」意味を持たない
まず押さえておくべきなのは、内部告発はタイミングを間違えれば、ほとんど無力だという点である。
市場が平穏で、問題が表面化していない段階で告発しても、「個人の意見」「未整理の論点」として握り潰される可能性が高い。逆に、すべてが破綻した後で告発しても、「今さら言われても遅い」「後出しの責任逃れ」として評価されにくい。
内部告発が本当に効力を持つのは、違法性が社会問題化し、行政責任が現実の争点になり始めた直後、この極めて短い局面である。
この段階では、行政も国会も検察も、何か決定的な材料を探している。そこに内部文書と実名証言が出てきた瞬間、流れは一気に変わる。
最初の分岐点は「内部通報」か「外部通報」かである
内部告発には二つのルートがある。金融庁の内部通報制度を使う場合と、組織の外に直接出る場合である。
内部通報は、原則として組織の是正を目的とした制度であり、刑事責任の追及や行政責任の公表を目的としたものではない。このルートを選んだ場合、告発内容は人事部門やコンプライアンス部門で処理され、多くの場合、内部調査で終わる。
ここで問題が表に出ることは、ほとんどない。
一方で、外部通報、すなわち検察、会計検査院、国会議員、報道機関への直接告発は、性質がまったく異なる。この瞬間から、内部告発は「是正の要請」ではなく、「責任追及の起点」に変わる。
2社間ファクタリング問題のように、組織ぐるみの黙認が疑われる案件では、内部通報はほぼ確実に無効化される。効力を持つのは、最初から外部に出された告発だけである。
本当に効くのは「証言」ではなく「文書」である
次に重要なのは、告発の中身である。
内部告発で最も弱いのは、口頭証言だけの告発である。「上司が黙認していた」「幹部が知っていた」という証言は、裏付けがなければ、ほぼ確実に否定される。
内部告発が決定打になるのは、必ず内部文書が添付されたときである。
法務意見書。
検査報告書の原案。
決裁起案の修正履歴。
会議の議事録やメール。
これらが揃った瞬間、告発は単なる内部告発ではなく、証拠付きの刑事告発予備軍に変わる。
特に破壊力が大きいのは、「違法性を明確に認識していたこと」と「是正を見送った判断」を同時に示す文書である。この二点が一つの決裁ラインで結びついていれば、行政裁量はほぼ崩壊する。
内部告発が最初に効力を持つのは「国会」と「検査院」である
内部告発が最初に実効力を持つ場面は、実は検察ではない。
現実に最も早く動くのは、国会と会計検査院である。
国会議員に渡された内部文書は、国政調査権という極めて強力な武器を伴って表に出る。参考人招致、証人喚問、資料提出命令。この段階に入ると、金融庁は内部文書を隠しきれなくなる。
会計検査院も同様である。検査院は行政機関の内部資料に直接アクセスできる数少ない機関であり、告発文書を手掛かりに再検査に入れば、金融庁自身の検査記録を掘り起こすことができる。
ここで初めて、内部告発は「噂」から「公的調査の起点」に変わる。
検察が動くのは、国家賠償と国会調査の後である
検察が本格的に動くのは、さらに後の段階である。
内部告発だけで、いきなり検察が金融庁幹部を捜査することはほとんどない。検察が動くのは、次の条件が重なったときである。
国家賠償訴訟で不作為違法が認定される。
国会調査で内部文書の存在が公になる。
検査院報告で組織的黙認が指摘される。
この三点が揃ったとき、内部告発は初めて、刑事事件の入口になる。
この段階では、告発者の証言は補強資料にすぎず、主役はすでに内部文書と公式記録に移っている。
内部告発が守るのは「真実」ではなく「告発者の立場」である
最後に、あまり語られないが、極めて重要な点がある。
内部告発の最大の効力は、事件を動かすことではない。
告発者自身が、将来の責任追及から逃れるための保険である。
金融庁内部で問題に関与していた職員が、後に責任を問われる局面で、「自分は当時、告発していた」「反対意見を出していた」と証明できれば、その人物はほぼ確実に免責される。
内部告発は、正義のためというより、
「自分は共犯ではない」という立場を確保するための制度でもある。
だからこそ、本当に危険な内部告発は、必ず記録付きで、しかも決裁ラインが固まる直前に出てくる。
内部告発が本当に効力を持つ瞬間は、一度しかない
結論は明確である。
内部告発は、いつでも効くわけではない。
誰にでも効くわけでもない。
効力を持つのは、問題が表面化し、責任追及が始まり、決裁ラインと内部文書が揃った、その一瞬だけである。
そしてその瞬間、内部告発が守るのは組織ではない。
告発者自身と、証拠に名前の残っていない者だけである。
2社間ファクタリング問題がもし法廷に進めば、最後に勝敗を分けるのは、業者でも金融庁でもない。
誰が、いつ、どの文書を外に出したか、ただこの一点で決まる。

