2社間ファクタリングの現場で、最も多く名前が出てくるのは業者でも金融機関でもない。顧問税理士、会計士、経営コンサルといった、経営者が日常的に最も信頼している専門家である。
銀行に断られ、資金繰りが詰まり、最後に相談した相手から「つなぎとして」「一度だけなら」と勧められる。その助言に従った結果、会社は高コスト取引に巻き込まれ、抜けられなくなっていく。
では、このとき士業は、法的にも職業倫理上も、何の責任も負わないのだろうか。懲戒対象になり得る余地は、本当に存在しないのか。
士業の懲戒制度は何を対象にしているのか
まず制度の前提を整理しておく必要がある。税理士、公認会計士、弁護士といった士業には、それぞれ業法に基づく懲戒制度が存在する。
懲戒の対象となるのは、概ね次のような行為である。
・業務に関する法令違反
・信用失墜行為
・品位を害する行為
・職業倫理に反する行為
形式的には、かなり広い概念が用意されている。単なる刑事犯罪だけでなく、「士業として不適切な行為」も懲戒理由になり得る。
問題は、2社間ファクタリングの紹介行為が、これらに該当すると認定されるかどうかである。
紹介しただけでは、原則として懲戒にならない現実
結論から言えば、現状では、単に2社間ファクタリングを紹介しただけで懲戒になる可能性は極めて低い。
理由は明確である。
第一に、2社間ファクタリング自体が、現時点では一律に違法とされていない。違法性が確定していない取引を勧めただけでは、「法令違反」とは評価しにくい。
第二に、士業は契約当事者ではない。ファクタリング契約はあくまで業者と経営者の間で締結され、士業は助言者・紹介者にとどまる。そのため、直接的な契約責任や債務不履行責任は原則として発生しない。
第三に、助言内容の違法性や過失を立証するのが極めて困難である。「危険性を十分説明しなかった」「不利な取引だと知りながら勧めた」ことを証明する証拠は、ほとんど残らない。
結果として、ほとんどのケースで、士業は「顧問として一般的な助言をしただけ」という説明で責任を免れている。
それでも懲戒対象になり得る境界線はどこか
もっとも、どんな場合でも完全に免責されるわけではない。実務上、懲戒リスクが現実化し得る境界線はいくつか存在する。
第一の境界線は、業者側から紹介料を受け取っていた場合である。
顧客の利益を守るべき立場の士業が、取引相手側から金銭を受け取っていた場合、これは典型的な利益相反行為に該当する。顧客に開示せずに継続的なバックマージンを受領していれば、「信用失墜行為」や「品位を害する行為」と評価される余地は十分にある。
第二の境界線は、虚偽または著しく不十分な説明をしていた場合である。
・高金利性を知りながら説明しなかった
・銀行取引への影響を故意に隠した
・「違法性はまったくない」と断定した
こうした助言が記録や証言で裏付けられれば、職業倫理違反として懲戒対象になる可能性は否定できない。
第三の境界線は、業者と事実上一体化していた場合である。
名義貸し、事実上の代理営業、固定的な紹介契約など、単なる助言を超えて業者の営業活動に深く関与していれば、「士業業務の範囲逸脱」として問題化する余地が出てくる。
現実には、なぜほとんど懲戒にならないのか
それでも、実務の現場では、2社間ファクタリングの紹介を理由に士業が懲戒された事例は、ほとんど表に出ていない。
最大の理由は、懲戒制度が基本的に申告制であり、被害者側が動かなければ何も始まらないという点にある。
経営者は、多くの場合、
・自分が悪かったと思い込む
・顧問と揉めたくない
・証拠がなく諦める
という形で、懲戒請求まで踏み込まない。
さらに、士業会の懲戒手続は内部性が強く、外部からは見えにくい。軽微な注意や戒告で終わるケースも多く、社会的に問題化しにくい構造になっている。
その結果、紹介して儲けても、ほとんどリスクがない市場が長年放置されてきた。
経営者が知らない、もう一つの現実
ここで極めて重要な点がある。
仮に士業が懲戒を受けたとしても、経営者の損害が回復するわけではないという現実である。
懲戒はあくまで職業資格上の制裁であり、損害賠償とは別の制度である。懲戒処分が出ても、ファクタリングで失った金は戻らず、資金繰りも改善しない。
つまり、この制度は、被害者救済のための制度ではなく、業界の自浄のための制度にすぎない。
最後に責任を負わされる構造は、何も変わっていない
ここまで見てきたとおり、2社間ファクタリングを勧めた士業が懲戒対象になる可能性は、理論上は存在する。しかし現実には、そのハードルは極めて高く、ほとんど機能していない。
業者は契約通りだと言い、
紹介業者は仲介しただけだと言い、
士業は助言しただけだと言う。
そして最後に責任を負わされるのは、いつも利用した経営者である。
だから、この問題で最も重要な警告は変わらない。
士業が勧めたから安全だ、という発想自体が、すでに最も危険である。
2社間ファクタリングは、違法か合法かが争われる以前に、責任の空白地帯で成立する取引である。その入口に立つ専門家ほど、最も疑ってかからなければならない。

