1 “過払い”とは何を指すのか
ファクタリングの手数料が法外に高い場合、「利息制限法の上限を超過した利息相当分」を取り戻せるのでは、という発想が浮かびます。ここでいう“過払い”は本来の債権譲渡手数料ではなく、実質が貸付と認定されたときに生じる不当利得の返還部分を指します。金融庁は「経済実態が貸付なら貸金業に該当する」という見解を示していますが、あくまで個別判断であり、一律に違法とは言っていません。
金融庁
2 判決が出ているのは主に給与ファクタリング
最高裁は十数年前、給与債権を買い取る形を装った“給与ファクタリング”を「貸付」と断定し、法外な手数料部分を無効としました。これがいわゆるヤミ金融判決で、過払い返還を正面から認めた数少ない先例です。
関西大学学術リポジトリ
ただし、これは個人の賃金債権を対象とした事案であり、企業間取引のファクタリングまで一律に違法としたわけではありません。
3 企業向けファクタリングで勝訴例が少ない理由
企業が業者を訴えた裁判例の多くは、
契約が「債権譲渡」であるとの判断
手数料が高くても直ちに暴利とは言えない
といった理由で請求が棄却されています。東京地裁のある事件でも、取引実態を詳細に審理したうえで「金銭消費貸借ではない」として返還請求を退けました。
PMG株式会社4 それでも“取れた”ケースは存在する
公開判決こそ少ないものの、和解で回収に成功した例は点在します。たとえば、手数料が年利換算で数百パーセントに達し、買戻し義務を負わせていた案件では、訴訟提起と同時に仮差押えを行い、結果として手数料の大部分が返還されたという報告があります。和解条項は非公開のため具体額は伏せられていますが、依頼企業は「数か月分の運転資金が戻った」と述べています。こうした事例は弁護士会の研修資料や専門誌のコラムに散見されるものの、判決文としては表に出ません。
日本弁護士連合会
5 過払いを取り戻すために超えなければならない壁
立証負担
業者が実質的に元本・利息・返済期日を設定し、譲渡人にリスクを押しつけていた事実をメールや入出金履歴から示す必要があります。
費用対効果
争点が手数料部分に限られ、金額も数十万から数百万円規模にとどまると、着手金と時間が見合わないケースが多くなります。
判例の乏しさ
十分な先例がないため、裁判所がどう評価するか読みづらいのが現実です。訴えを起こす側も慎重にならざるを得ません。
社長のきもち6 成功のカギは“貸付”認定と保全策
実際に返還を勝ち取れた案件では、
買戻し義務や償還請求権が条文に明記されていた
手数料が市場相場を大きく超えていた
売掛先倒産のリスクを譲渡人が負っていた
といった要素を組み合わせて貸金業法違反を主張しています。さらに、売掛金の支払先を仮差押えで止め、和解交渉の材料にした点も共通項です。7 過払いを求める前に確認すべき実務ポイント
契約書の条文──買戻しや遅延損害金の条項があるか
手数料率の妥当性──市場平均と比べて極端に高くないか
債権譲渡登記の有無──第三者対抗要件が整っているか
交渉履歴──業者が返済を迫る言動を記録しているかこれらをそろえたうえで、専門家と相談しながら「訴訟」「ADR」「内容証明での交渉」と段階的に進めるのが現実的です。
8 今後“取れる”事例が増える可能性
電子帳簿保存法やインボイス制度の浸透で、取引データがクラウドに残りやすくなりました。証拠収集が容易になれば、貸付認定のハードルが下がり、和解でも判決でも返還を勝ち取る道が広がるかもしれません。さらに、金融庁が違法業者への行政処分を強化したことで、過剰手数料を巡る法的議論が加速しています。
株式会社No.1
9 まとめ──判例は少なくても「ゼロではない」
現時点で、企業向けファクタリングの“過払い返還”を正面から認めた判決はごくわずかです。それでも、
個人向け給与ファクタリングの最高裁判例
企業案件での和解による返還事例
が存在し、条件次第では取り戻せる余地が確かにあります。最終的に成果を得るためには、契約実態を緻密に分析し、手数料の妥当性とリスク配分の偏りを立証することが不可欠です。判例が乏しいからこそ、「証拠を残す」「保全を先行する」という準備が結果を大きく左右します。
さらに近年では、ファクタリングにおける「掛け目」の設定が新たな争点として注目されています。
掛け目とは、売掛債権額に対して何割分を資金化するかという割引率で、信用リスクや回収遅延を見越して80%や70%といった形で調整されます。ところが、形式上「買取」契約としながらも、掛け目を理由に大幅に資金化額を減らし、そのうえで買戻し義務や売掛先不払いリスクを譲渡人に押しつけている場合、実態は「担保付き貸付」に極めて近いと評価される可能性が高くなります。

