事実上のヤミ金を「管轄外」と言い切る行政の鈍感
はじめに
売掛債権を譲渡して即日資金化できる2社間ファクタリングが急拡大している。利便性の裏側で手数料は高騰し、償還請求権や遅延損害金条項によって利用者が実質的な返済義務を負うケースが相次ぐ。専門家の間では「構造はヤミ金と同一」との指摘が既に定着しているが、金融庁は依然として「債権売買取引であり、貸金業法の直接監督対象ではない」との立場を崩さない。形式を楯に“管轄外”と公言し、注意喚起リーフレットを更新するだけで実質規制に踏み込まない――その態度こそが被害拡大の温床になっている。本稿では三千字超で、金融庁の問題意識の欠如を多角的に検証する。
1 形式主義に終始する行政解釈
貸金業法は「元本返還の約束を伴う金銭交付」を貸付と定義し、登録制と利率規制を課している。2社間ファクタリングは書面上「譲渡」「売買」であるため、金融庁は長らく貸金ではないという姿勢を維持してきた。だが実態は、①償還請求権付き、②売掛先遅延時の全額負担義務、③遅延損害金の高率設定、など貸付と同質のリスク移転構造が顕在である。2024年通達で「実質貸付なら貸金業」と一応明示したものの、監督手法や指導事例は公表されていない。結局、形式主義を温存し「個別判断に委ねる」との逃げ道を残したままである。
2 “注意喚起”に矮小化される行政対応
金融庁はウェブサイト上に「偽装ファクタリングに注意」というPDFを掲載し、利用者に自衛を促す。しかし、その内容は「手数料が高い業者は要注意」「償還請求権がある場合は貸付の可能性」といった一般論に留まり、違法業者の名称公表も行政処分例の紹介もない。貸金業では登録リストと処分履歴を詳細に掲示する一方で、ファクタリングについては実質貸付の疑いがあっても個別事例を伏せる。この情報非対称性こそ被害を拡大させる元凶だ。
3 監督空白が生んだ市場の歪み
管轄外との宣言は、法のグレーゾーンで高利取引を行う業者に事実上の“免罪符”を与える。金融庁が踏み込まない領域に、登録不要・監督なしの金融サービスが乱立し、上場企業までが参入してきた。行政が透明なルールメークを怠った結果、健全なファクタリングと高利貸付の線引きが曖昧になり、市場はモラルハザードに陥っている。
4 被害者の声と救済の欠落
東京都の機械加工業C社は、資金繰り悪化で二度目のファクタリングを利用した直後、売掛先の支払いが遅延。償還請求を受け、手数料を差し引いた買取額を超える返金を迫られた。顧問弁護士が貸金業法違反を主張したものの、金融庁は「売買契約は所管外」と回答。監督当局の不介入により、C社は訴訟費用を捻出できず廃業に追い込まれた。こうしたケースでは消費者金融被害と異なり、行政ADRも整備されておらず、実効的救済が機能していない。
5 国会答弁と政策的責任
2025年春の参議院財政金融委員会で、野党議員が「2社間ファクタリングはヤミ金同然」と質した際、担当副大臣は「個別に実態を把握した上で必要な措置を検討する」と答弁したが、その具体策は示されなかった。形式論を盾に監督逃れを続ける限り、国会での議論も空回りし、政策的責任は宙に浮く。
6 海外比較が示す行政の出遅れ
米国では売掛債権ファイナンスに関する統一商事法典(UCC)の下、ディスクロージャー義務とリコース制限が明示され、違反業者には州金融局が行政罰を科す。英国でも「Small Business Commissioner」が支払サイト改善と高利ファクタリング苦情を一体管理する仕組みを導入した。対照的に日本の金融庁は、実質貸付判定のガイドラインすら整備せず、「注意喚起」依存を続ける。この国際比較からも、行政の出遅れは明らかだ。
7 抜本策──監督一元化と開示義務
①貸金業法の定義を拡張し、実質貸付要件を明文化する。②ファクタリング業者に登録制を敷き、手数料上限・償還条項の有無を開示させる。③行政処分歴・苦情件数を公表し、利用者の選択を支援する。④金融ADRにファクタリング専用スキームを設置し、被害救済を迅速化する。⑤違反業者には名称公表と業務停止命令を適用する――これらを包括的に実施することで、形式ではなく実質を監督できる体制が整う。
結論
金融庁が「2社間ファクタリングは管轄外」と言い切るたび、市場は“合法を装ったヤミ金”という歪な成長を遂げる。注意喚起PDFで責務を終えた気になっているうちは、被害者は救われず、経済全体の信用が損なわれ続ける。形式的境界線の外に逃げるのではなく、実質を見据えた規制と透明性の確立こそが、行政に課せられた本当の使命である。

