——事業者審査という矛盾と、債権評価の本質とは
「利用者の人柄」や「信用力」を問う審査
あるファクタリング会社のホームページには、次のような一文が掲載されています。
ファクタリング審査では、売掛金や売掛先だけでなく、利用者が一定の審査基準を満たしているか確認します。この後に続く審査項目として、以下の7項目が挙げられています。
身元・人柄
モラルの高さ
信用力の高さ
必要書類の有無
売掛先の同意の有無
事業形態
ファクタリング会社との相性さらに、利用者が赤字決算であっても利用できるとしつつ、「過度に経営状態や財務状況が悪化していれば、審査に通りにくくなる」とも明記されています。具体的には、「2〜3期分の決算書(確定申告書)」の提出を求めるといった内容まで記載されています。
これらの説明を読む限り、ファクタリングという「売掛債権の買取」サービスであるはずの取引において、売掛債権そのものよりも、売主(債権譲渡人)の属性や信用状況が重視されていることが分かります。
本来、ファクタリングの審査とは、債権の実在性や支払確実性(信用リスク)を、売掛先に対して行うものであるべきです。債権の買取取引において、売主のモラルや事業形態との「相性」を問題にするのは、明らかにその本質から逸脱しています。
ファクタリングとは「売買契約」である
まず基本に立ち返るべきですが、ファクタリングとは「金銭債権(売掛金)」の譲渡によって資金化を行う仕組みです。その本質は「債権の売買」であり、貸金とは明確に区別されます。譲渡対象の債権が適法で、譲受人(ファクタリング業者)が債権回収を行う権利を持つことになるため、審査の主体も売掛先(第三債務者)に向けられるべきです。
債権が有効で、支払期日が到来しておらず、売掛先が支払能力を有している——これらが明らかであれば、売主の事業形態や人柄は、本来の取引リスクにほとんど関係ありません。実際、債権回収リスクが売掛先に紐づいている以上、重視すべきは「債権の発生根拠」と「売掛先の信用力」なのです。
にもかかわらず、利用者に対する財務諸表の提出や、決算状況の確認、人格的評価を求めるということは、その審査の中心が債権ではなく「利用者そのもの」であることを意味しています。
これはまさに、貸金的な発想です。
「貸さないための審査」になっていないか
前回のコラムでも指摘したように、債権の継続性や過去の取引回数などを重視し、一過性の債権を否定するような姿勢は、既にファクタリング本来の趣旨を逸脱しています。今回の事業者側への審査項目は、その傾向をさらに強めたものだといえます。
貸金審査とは、返済能力を見るために、申込者の属性や信用力を評価する行為です。審査の根底には「貸したお金が返ってくるかどうか」の視点があります。では、ファクタリングにおいてはどうでしょうか?
答えは明白で、ファクタリングにおける「返済」は発生しません。買い取った債権が回収不能であれば、そのリスクは譲受人(ファクタリング会社)が負う仕組みです。だからこそ、売主の信用状況を根拠にした審査は、契約実態と矛盾するものです。
とくに、「ファクタリング会社との相性」「人柄」などは、主観的かつ抽象的な基準であり、審査の透明性・客観性を損ねる要因にもなりえます。これは、「信用リスクを表現している」とは到底言い難く、むしろ「貸さないための理由」を探しているようにさえ映ります。
赤字でもファクタリング利用は可能——のはずでは?
ファクタリングのメリットとして、「赤字企業や債務超過でも利用できる」という点がしばしば挙げられます。なぜなら、売掛債権の信用力が主であり、譲渡人の財務状況に左右されないためです。これこそが、金融機関の融資審査と異なる点であり、ファクタリングの存在価値といえます。
しかし今回のように、2〜3期分の決算書の提出が必須であるかのような運用がなされているとすれば、そのメリットは空文化してしまいます。結局は、「決算が悪ければ審査に通らない」という構図となり、実質的には融資と変わらない運用になっているのです。
もし財務状況の良し悪しで審査可否が左右されるのであれば、それは資金提供の根拠が「債権の価値」ではなく、「利用者の返済能力」に置かれているということになります。これもまた、貸金的な思考が介在している明確な証左といえるでしょう。
適正な債権評価に立ち返るべき
ファクタリング会社が適切にリスクを管理すること自体は当然のことであり、否定されるべきではありません。問題なのは、そのリスク評価が債権の性質から逸脱し、「人格審査」や「財務状況評価」に偏っている点にあります。
売掛債権が実在し、過去の取引履歴がなくても、内容が明確で売掛先に支払能力があると認められれば、それは資金化の対象として妥当であるはずです。継続取引がないから、一過性だから、決算が赤字だからといった理由で却下されるようでは、債権そのものの信用力を軽視していることになります。
本来、ファクタリング会社が重視すべきは、以下のような観点であるべきです。
債権の発生原因の正当性(契約書・請求書・納品書など)
売掛先の資金力や信用情報
売掛債権の支払期日や回収可能性
債権譲渡に関する通知や同意の可否これらに適切な判断を加えることこそが、真の意味での「審査」であり、リスクマネジメントです。
最後に——本当に求められるファクタリングとは
昨今、ファクタリングの利用は中小事業者にとって重要な資金調達手段の一つとして定着しつつあります。しかし、こうした「貸金的発想」が蔓延すると、本来の制度的意義が歪められ、必要な人にサービスが届かなくなるおそれがあります。
貸金でないからこそ、与信が弱い事業者でも債権があれば資金化できる。それがファクタリングのはずです。
利用者の「人格」や「決算書」に過度に依存する審査ではなく、債権という資産そのものの価値を見極める目こそが、今の業界に求められています。

