「偽装ファクタリング」はヤミ金の温床か──二社間ファクタリングの構造的問題と今後の課題

不存在債権は「詐欺か?」「不当原因給付か?」
A Japanese chef struggling with tax returns

「また来た」。都内で工事会社を営む男性が、事務所のファクスに目を落としながらこぼした一言が、今の日本の資金調達環境の一端を象徴している。
彼の元に届いたのは、ファクタリング業者からの広告。「銀行で融資を断られた方におすすめ」「赤字決算、税金滞納でも大丈夫」。そんな甘い文句が並び、最後には「最短1日で1000万円まで資金調達可能」と続く。

この広告が指すファクタリングとは、本来、企業が保有する売掛債権を第三者が買い取ることで早期に現金化する、極めてシンプルな金融取引だ。一般的には企業A(債権者)が企業B(債務者)への売掛金をファクタリング業者に譲渡し、業者は企業Bにも通知を行った上で、その売掛債権の管理・回収を引き受ける。これが「三社間ファクタリング」と呼ばれる、本来の形式である。

しかし、今問題になっているのは「二社間ファクタリング」と呼ばれる形式である。これは債権の譲渡を債務者には通知せず、資金調達を希望する企業とファクタリング業者との間だけで完結する契約だ。表向きは「債権譲渡」であるが、実態はどうか。

東洋経済の記事によれば、資金繰りに苦しむ中小・零細企業の間で、こうした「偽装ファクタリング」の被害が多発しているという。表面上は債権譲渡として契約を締結しているが、実態は貸付に等しいスキームが横行している。

たとえば、譲渡した売掛債権について、万が一回収できなかった場合は債権を「買い戻す」契約が付されていることが多い。これは実質的に企業側が債務リスクを負っている構造であり、債権を担保にした貸付とみなされても不思議ではない。手数料名目で差し引かれる金額も、年利換算すれば利息制限法の上限をはるかに超えるケースが珍しくない。

平成29年12月、日本貸金業協会は「ファクタリングを装ったヤミ金融にご注意ください」との文書を発表し、明確に警鐘を鳴らしている。そこでは、以下のようなケースはヤミ金融である可能性が高いとしている。

  • 売掛債権譲渡契約に償還請求権(買戻し特約)が付いている
  • 通帳やキャッシュカード、銀行印などを預けさせられる
  • 実際の金銭受け渡しが手渡しである
  • 契約書の写しや領収書が渡されない
  • 買取金額と債権額の差額が高利である

これらは、貸金業登録を持たない業者が、形式上「債権譲渡契約」として資金を交付しながら、実質的には貸金業を営んでいることを意味する。すなわち、「偽装ファクタリング」はヤミ金そのものといっても過言ではない。

では、なぜこのような構造が放置されているのか。その背景には、「二社間ファクタリング」の制度的な曖昧さと、規制の不徹底がある。現行の貸金業法では、債権譲渡自体は貸付とみなされないため、形式的に「売買契約」を装えば、貸金業の登録を必要としない抜け道が存在する。結果として、法の網をすり抜けたヤミ金融が合法的な顔をして中小企業を狙う構造ができてしまっている。

さらに問題を深刻にしているのが、こうしたファクタリングの広告が堂々と行われている点だ。東洋経済の記事のように、FAXやSNS、ダイレクトメールで日常的に経営者にアプローチし、「赤字決算でもOK」「税金滞納中でもOK」といった文句で引き込む。資金に困っている経営者にとっては藁にもすがる思いで手を出してしまうが、その先に待っているのは高額な手数料と抜けられない債務の罠である。

業界の自主規制も十分とは言えない。貸金業協会のように警鐘を鳴らす姿勢は評価されるべきだが、実態としては二社間ファクタリング業者の多くが協会に加入しておらず、届出や監視の外にいる。ファクタリングを標榜する業者すべてを監督対象とする仕組みはなく、被害は野放しのままだ。

ここで求められるのは、法制度の整備と実態に即した規制である。
具体的には、以下のような提言が考えられる。

  1. 形式ではなく実質で判断する法的枠組みの導入
     ファクタリングが形式的に「債権譲渡契約」となっていても、実質が貸付であれば貸金業法の適用対象とするべきである。買戻し特約の有無、資金の流れ、リスクの所在などから総合的に判断する規定が必要だ。
  2. 二社間ファクタリングに関する明確な登録制度の創設
     ファクタリング業者を名乗る業者には、貸金業とは別に登録制を導入し、少なくとも国の監督下に置くべきである。
  3. 中小企業向けの資金支援制度の拡充と情報提供
     資金繰りに悩む中小企業が、ヤミ金まがいの業者に頼らざるを得ない状況そのものを改善する必要がある。信用保証協会や政府系金融機関による柔軟な支援策が、より浸透するよう情報提供を徹底すべきだ。
  4. 違法業者の実名公開と徹底的な摘発の推進
     実際に摘発されたファクタリング業者の実名を公表し、業界から排除する姿勢を明確にすることで、抑止効果を高める必要がある。

結局のところ、「二社間ファクタリング」は本来のファクタリングとは似ても似つかない異質な仕組みである。それを放置することは、貸金業の信用を傷つけ、健全な中小企業金融の基盤を揺るがすことにつながる。

健全な資金調達環境を守るためには、見かけの契約形式ではなく、実態を捉えた法規制と監督の強化が不可欠である。今こそ、制度のほころびを直視し、「偽装ファクタリング」という名のヤミ金ビジネスに終止符を打つ時である。