コロナ禍で注目された“即日資金調達”
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの中小企業が経済的な打撃を受けました。その救済策として政府が打ち出した「ゼロゼロ融資」は、実質無利子・無担保で資金を貸し出す異例の制度として急速に拡大し、多くの企業が一時的に資金をつなぐことができました。しかし、2023年を迎え、その返済が本格化する中、資金繰りに再び窮する企業が急増しています。
そうした背景のもと、「ファクタリング」と呼ばれる資金調達手法に注目が集まりました。なかでも、取引先に知られずに利用でき、即日で資金化できる「二社間ファクタリング」が急速に広まっています。NHKの報道によれば、ファクタリング業者の中には、申込件数がコロナ前の月100件から、現在では月1000件を超えるケースもあるといいます。
一見すると、銀行融資よりも手軽でスピーディーな資金調達方法のように見えるこの仕組み。しかし、その裏には法規制の網をかいくぐった、極めてグレーな実態があります。企業の首を絞める“麻薬のような資金繰り”の実態とは、いったい何なのでしょうか。
二社間ファクタリングとは何か
ファクタリングとは、企業が保有する「売掛債権」を第三者に売却し、その対価として現金を受け取る仕組みです。本来は三者間取引(企業・取引先・ファクタリング会社)で債権譲渡が公に通知される形が主流でしたが、近年では取引先に知られずに売却できる二社間型が拡大しています。
二社間ファクタリングの典型的な流れは次のとおりです。
- 売掛債権(例えば500万円)をファクタリング会社に売却
- 手数料(8〜30%程度)を差し引いた金額(例:460万円)を即日受け取り
- 売掛先から入金された全額(500万円)を、後日ファクタリング会社に送金
このように、表面上は「債権の売買」に見える構造ですが、実際には「500万円を担保に460万円を借り、後日利息付きで500万円を返す」行為に酷似しており、経済的実態としては“貸付”と見なすべき構造になっています。
実質的にはヤミ金融と同じ構造
問題となるのは、この取引が形式上は「売買契約」であることにより、貸金業登録や利息制限法・出資法の適用を回避している点です。通常の金融機関や貸金業者であれば、年利15〜20%の上限が定められており、それを超える利息を取れば違法となります。しかし、ファクタリングの場合、1回の取引で20%以上の手数料が取られることも珍しくありません。
しかも、契約書上は「ノンリコース」(支払い不能時の返金義務なし)と記されていても、現実には支払が遅れたり、債権が不履行になった場合、業者からの執拗な取り立てや、別債権への切り替え要求といった“ヤミ金まがい”の行為が横行しています。
これはまさに、ヤミ金融が使う「手形割引」「質屋」を装った高利貸しと類似したスキームです。法の目をすり抜け、形式を整えることで違法性を薄めているだけで、その実態は高利の貸付にほかなりません。
利用者の証言:「麻薬のようだった」
NHKが取材した建設会社の男性は、東京五輪関連の受注増に対応するため、2019年に初めてファクタリングを利用しました。最初は1000万円の売掛債権を売却し、800万円の現金を即座に得られたことで、「助かった」と感じたといいます。しかし、その後も同様の資金繰りが続き、新たな債権を売却して前の取引の返済に充てるという“自転車操業”に陥りました。
この男性が漏らした「ファクタリングは麻薬のようだ」という言葉には、短期資金の常習的な依存性と、その代償としての経営破綻リスクが如実に現れています。事実、ファクタリングを利用した企業の中には、半年足らずで倒産に追い込まれるケースも少なくありません。
法律の空白と行政の後手対応
現在の日本の法制度では、ファクタリングを直接規制する明確な法体系は存在しません。貸金業法、利息制限法、出資法のいずれも「売買契約」に対しては適用外とされているため、実質貸付と見なせるような取引でも、取り締まりは困難です。
金融庁や中小企業庁も、二社間ファクタリングの実態については一定の注意喚起を行ってはいるものの、業者の参入規制や監督権限が整備されておらず、業界の自律的な倫理に委ねられているのが現状です。
一部の業界団体が自主ルールを設けてはいますが、加盟は任意であり、悪質業者の参入を防ぐ力にはなっていません。このような法的空白が、ヤミ金と紙一重の業者をのさばらせる温床となっています。
必要なのは「資金調達の多様化」と「法的整備」
二社間ファクタリングは、その即時性や手軽さゆえに一定のニーズがあるのは事実です。急な資金需要に対し、銀行融資では間に合わないケースも多いため、これを全否定すべきではないでしょう。
しかし、現状のように無登録・無規制の業者が高額な手数料を取り、企業を債務のループに追い込む構造は、持続可能な中小企業経営とは相容れません。
今後求められるのは、以下のような対策です。
- 実質貸付に該当するファクタリング取引への貸金業法の準用
- 手数料の上限設定(利息制限法と同等またはそれ以下)
- 業者の登録制と行政監督の導入
- 不当な取り立て行為への刑事罰規定の明文化
- 中小企業向けに公的ファクタリング支援制度の整備
企業が「本当に必要な資金調達手段」を選ぶために
資金繰りに困る企業にとって、「今日中に数百万円必要」という状況は、確かに切実です。しかし、その一歩が「高利の負債」に繋がるとすれば、もはや経営改善ではなく、経営破綻へのカウントダウンを始めてしまうことになります。
必要なのは、短期資金・中期資金・長期資金といった目的に応じた適切な金融手段の選択と、その選択を支える制度設計です。税・社会保険の支払い猶予や、商工会議所・信金などによる柔軟な貸付、あるいは自治体レベルの緊急資金制度の強化など、選択肢の多様化が求められます。
ファクタリングを「最後の手段」として活用するなら、そのリスクと代償を十分に理解した上での慎重な利用が不可欠です。そして行政・立法・司法の三者がこの“資金調達の影”に真摯に向き合わなければ、第二・第三の“麻薬依存倒産”はこれからも止まらないでしょう。

