~ファクタリング業者に重くのしかかる「重大な過失」の認定~
2024年4月、東京高等裁判所においてファクタリング業者の責任を厳しく認定する判決が下された。本件は、破産会社がファクタリング業者に譲渡した売掛債権に「譲渡禁止特約」が付されていたにもかかわらず、業者側がその存在を見落とし、結果として譲渡が無効とされ、破産管財人から不当利得返還等を求められたというものである。
原審は業者側に過失はなかったと判断していたが、控訴審である東京高裁はこれを覆し、「重大な過失あり」と明確に判示した。その内容と意義は、ファクタリング業界全体に冷や水を浴びせるものであり、特に“2社間ファクタリング”という実態の不透明な領域でビジネスを展開する業者にとっては、制度設計の根幹を揺るがす判決と言える。
◆ 事案の骨子:譲渡禁止特約の見落とし
本件の舞台は、すでに破産した中小企業(以下「破産会社」)と、複数のファクタリング業者(以下「Yら」)との間における債権譲渡取引である。破産会社は、売掛先に対する債権をYらに譲渡し、資金を調達していた。
ところが、当該債権には譲渡禁止特約が付されていた。つまり、契約上「第三者にこの債権を譲渡してはならない」と明記されていたにもかかわらず、Yらはそれを確認せず、譲渡を受けてしまっていた。
これに対し、破産会社の破産管財人は「譲渡禁止特約がある以上、債権譲渡は無効である」と主張し、すでに供託されていた売掛金の還付分の返還と、未還付の供託金に関する確認を求めて訴えを提起した。
◆ 控訴審の判断:「重大な過失あり」
東京高裁は以下のように述べ、ファクタリング業者の落ち度を明確に断罪した。
「Yらはファクタリング会社としての知識や経験を有し、本件債権について譲渡禁止特約が付されている可能性が高いことを認識していた。にもかかわらず、破産会社の代表者に対して基本契約書の提示を求めるなどして、特約の有無を確認しなかった。」
すなわち、Yらが“プロ”として当然確認すべき事項を怠り、「漫然と譲渡を受けた」点に重大な過失があると認定したのである。
この判断は、債権譲渡における“確認義務”を非常に厳格に見積もったものである。単に特約の存在を知らなかったというだけでは済まされず、「知っていて当然」「疑って当然」「確認して当然」という三重の注意義務が、専門事業者には課せられているということだ。
◆ 実務上のインパクト:2社間ファクタリングへの警告
本件の本質は、ファクタリング業者が**「顧客企業との取引実態をろくに確認せず、資金を出した責任」**を法的に問われた点にある。しかも問題となったのは「通知型」の3社間ではなく、譲渡通知すら省略されることの多い“2社間ファクタリング”の文脈である。
2社間ファクタリングでは、売掛先企業(債務者)に一切の通知をせず、契約書の中身すら未確認のまま「売掛債権の存在」を信じて資金提供が行われるケースが多い。これは、構造的に譲渡禁止特約や架空債権の存在を見落としやすい土壌を持つ。今回の判決は、そのような杜撰な実務慣行に明確な「NG」を突き付けたといえる。
今後、ファクタリング業者は、以下のような点を厳しくチェックする必要がある。
- 売掛債権の原始契約(基本契約書)を閲覧・取得する
- 譲渡禁止特約の有無を明文化し、書面で確認する
- 債務者の意思を確認できない2社間ファクタリングの際には、特に慎重な調査を尽くす
これを怠った場合、債権譲渡の無効=資金の回収不能=不当利得返還の義務発生という地雷が待っている。
◆ 判例としての射程と今後の予見
本件が画期的なのは、「重大な過失」の範囲をプロフェッショナルに対して特段に広く解釈した点である。これまでの実務では、「譲渡禁止特約の存在を知らなかったこと」自体に過失があるとする判例はあったものの、ここまで明確に業者の注意義務違反を認定した高裁判決は稀である。
今後、類似事案において同様の理屈が適用されれば、ファクタリング業界は事実上、次のような選択を迫られることになる。
- 債権譲渡契約における厳格な調査と契約書の収集をルール化する
- 疑義のある債権は譲渡対象から除外する
- それでも取引したい場合は、リスクを織り込んだ保険制度等を整備する
これは、脱法的な資金融通手段としてファクタリングを利用する事業者にとっても、非常に強い“自粛圧力”になるだろう。
◆ 結語:「プロ」であるがゆえの責任
今回の判決は、債権譲渡に関与する業者に対して、「あなたはプロなのだから、それ相応の調査義務と確認責任を果たしなさい」と釘を刺したものである。表面的には“契約自由の原則”が許されていても、プロフェッショナルである限り、リスクを「知らなかった」「聞いていなかった」では済まされない時代が到来したのだ。
ファクタリング業界が今後も社会的信用を維持するためには、形式主義を排し、実態に即した透明性ある運営と調査体制を築くことが喫緊の課題である。そして、この判決はその第一歩として、非常に重く、そして示唆に富む警告となっている。

