「“借金ではない”という幻想の中で」
Ⅰ. 被害は「偶然」ではない
ここまで寄せられた被害者の証言を俯瞰すると、ひとつの共通点が浮かび上がってくる。
それは「資金繰りに追われたとき、人は“合法的に見える悪”を選びやすい」ということだ。
桶谷さん、橋本さん、高田さん、江藤さん――
誰もが最初は、“助けてくれるサービス”だと信じていた。
銀行の審査は通らず、取引先の支払いは遠く、日々の資金繰りに限界が来ていた。
そんなとき、検索の上位に現れる「借金ではない即日資金調達」。
その言葉が、最後の希望に見えた。
だが結果は同じだった。
30万円を渡されて、40万円以上を返す。
わずか数週間の間に、手数料という名の高利が雪だるま式に膨らんでいく。
冷静に計算すれば、実効金利で年400〜600%。
つまり、典型的なヤミ金水準である。
しかしこの手口は、「偶然悪質業者に出会った」のではない。
構造そのものが、被害を生むように設計されているのだ。
Ⅱ. “情報サイト”という名の入口
被害のほとんどが、アフィリエイト型の比較サイトから始まっている。
「ファクタリングおすすめランキング」「審査が緩い業者ベスト5」――
その多くが、金融情報サイトを装った広告である。
記事形式で「口コミ評価」「専門家監修」などが並ぶが、
裏側では、紹介報酬が高い業者ほど上位表示される。
つまり、「おすすめ」と書かれていても、それは“広告主の利益順”なのだ。
ユーザーは「第三者の評価」を信じたつもりでも、
実際には「報酬の高い順」に誘導されている。
この“中立を装う広告”が、もっとも悪質なトリックである。
しかも掲載企業の中には、上場企業の関連会社や大手グループ傘下を名乗るものも多い。
そのブランドが安心感を生み、「ここなら大丈夫」と思わせる。
こうして被害者は、入口の時点で既に“仕組まれた選択”をしてしまうのだ。
Ⅲ. 情報搾取という「第二の被害」
さらに深刻なのは、契約の過程で集められる個人情報の濫用だ。
免許証のコピー、通帳の写し、請求書のデータ、取引先の社名――
こうした情報は、審査名目で送らせたあと、別の業者に共有・転売されることがある。
結果、契約後すぐに似たような資金調達業者から電話がかかってくる。
あるいは、まったく別ジャンルの「債務整理」「経営改善」「M&A仲介」などの営業が続く。
一度踏み込んだだけで、“金の匂いがするリスト”としてマーキングされるのだ。
この構造は、従来のヤミ金よりも遥かに巧妙で、
「貸金業」ではなく「情報ビジネス」として成立している。
つまり、“貸して搾る”のではなく、“集めて売る”のだ。
この二段構えの搾取が、現代型ファクタリング被害の新しい姿と言える。
Ⅳ. 合法の仮面をかぶった構造的暴力
弁護士に相談しても、「違法ではない」「契約として成立している」と言われることが多い。
なぜなら、形式上は“売買契約”だからだ。
金銭の貸付ではなく、「債権の譲渡」という名目で処理される。
この「法のグレーゾーン」を利用して、
貸金業登録のない企業が堂々と資金提供を行い、
しかも“合法”を装うことができる。
法の隙間で「安全」を演出し、倫理の外で「利益」を確保する――
これが現代型の合法ヤミ金ビジネスの正体である。
Ⅴ. いま必要なのは「声」
こうした構造を変える力を持つのは、制度ではなく「証言」だ。
一人ひとりの被害の声が積み重なって、初めて社会が反応する。
被害者の多くは恥や後悔から沈黙するが、
その沈黙こそが、次の被害者を生み出す温床になっている。
だからこそ、語らなければならない。
“借金ではない”という幻想の裏側に、どれほど多くの人が苦しんでいるかを。
Ⅵ. 次回予告 ― 「情報提供者の罪」へ
ここまで見てきたように、被害は“利用者”の側だけでは終わらない。
次に焦点を当てるのは、被害者を送り込む側――アフィリエイト運営者だ。
誰が報酬を受け取り、どのように誘導が組まれているのか。

