「もう、どこからも借りられなかったんです。」
取材に応じてくれたのは、都内で小さな清掃会社を営む 佐藤正樹さん(仮名・42歳)。
数年前、取引先の倒産で資金繰りが急に悪化し、銀行にも公庫にも断られ、最後に頼ったのが「請求書買取」と称するファクタリングだった。
ネット検索で出てきた“比較サイト”には、こう書かれていた。
「金融ではないから安心」「審査が早く、即日入金」「中小企業の味方」。
藁にもすがる思いで問い合わせた。
しかし、その決断が、長く続く悪夢の入り口だった。
■ はじめての「請求書買取」
最初に申し込んだのは30万円。
取引先からの入金日まであと1か月。
その請求書を送ると、数時間後に電話があった。
「すぐにでも対応できます。ただし、信用審査のために取引先とのメール履歴や見積書もお願いします。」
言われるままに提出した。
翌日、担当者から「承認されました」と連絡。
しかし、入金額は 21万円。
つまり手数料は 30%。
一瞬「高いな」と思ったが、「即日現金化できた安心感」で頭が麻痺していた。
■ 雪だるま式の依存
最初の入金で助かったのも束の間、
翌月の支払いがまた苦しくなった。
結局、また同じ業者に申し込む。
「前回より金額を増やせますよ」と勧められ、今度は 50万円。
だが、実際の入金は 35万円だった。
取引先からの入金で業者へ返済しても、次の支払いが待っている。
結果、常に2件、3件のファクタリング契約を抱え、どれがどれの入金か分からなくなった。
「まるでリボ払いの無限地獄みたいでした。返しても返しても、また次の支払いが来る。手数料を足すと、金利換算で90%超えてたんですよ。」
■ 取引先に知られた“信用崩壊”
最悪の瞬間は、業者が突然、取引先に直接連絡した時だった。
「入金確認を取りたいだけです」と説明されたが、
それで取引先にはすべてがバレた。
その結果、長年付き合ってきた取引先から取引停止を告げられた。
「資金繰りに困ってファクタリングを使うような会社とは、もう取引できない」
その一言が致命的だった。
「お金よりも、“信用”を失いました。ファクタリングのせいで、もう一度社会的に立ち直るのがどれほど難しいかを思い知りました。」
■ 弁護士への相談と“出口”
最後に残ったのは、支払い不能に陥った3件分の契約書。
業者は法的手段をちらつかせ、「詐欺的取引」「債権譲渡契約違反」などと脅してきた。
しかし、相談した弁護士から返ってきた言葉は意外だった。
「この内容は、実質的には貸金業。あなたが借りたのではなく、彼らが違法をしている可能性があります。」
弁護士の助言を受け、内容証明を送り、業者との交渉が始まった。
結論から言えば、すべてを取り戻せたわけではない。
だが、過剰な請求を撤回させ、以後の取引を断つことには成功した。
■ 「もう、救済という言葉は信じない」
「ファクタリングは金融じゃない」
「誰でも利用できる新しい資金調達」
そうした言葉を信じたのは、自分の判断ミスだと今では思う。
だが、あの広告や比較サイトが“誤解を誘う設計”だったことも事実だ。
「助けてくれるはずの仕組みが、実は地獄の入口だった。救済という言葉ほど、危ないものはないです。」
今、佐藤さんは再び銀行と向き合い、正規の融資を受けられるよう信用回復に取り組んでいる。
失った時間と信用は戻らない。
しかし、「もう二度と“金融ではない金融”に騙されない」と決意している。
■ 編集後記
ファクタリング被害の実態は、個人事業者や中小企業が表に出せないだけで、氷山の一角だ。
そして多くの被害者が「誰かに話したい」と思いながらも、
「経営者として恥ずかしい」と口を閉ざす。
だが、語られない限り、同じ構造は繰り返される。
“合法”という名の欺瞞を放置すれば、次の被害者がまた生まれる。

