――「即日入金」の影で、消えていく小さな声
1 “即日”に群がる人々
半年前、私は都内の雑居ビルの一室にあるファクタリング会社へ潜入した。
受付は妙に広く、しかし奥は暗く締め切られ、壁には「Web完結・最短30分」のポスター。
いわゆる“広告用の顔”だ。
今回訪れたのは、そのときとは別の事業者だが、流れ込んでくる人の顔ぶれは同じだ。
建設、運送、個人事業、フリーランス――どれも資金繰りが日々ギリギリの現場で働く人たちである。
「銀行は数字しか見ない。でもここは“今必要なんです”を聞いてくれるんですよ」
そう語るのは、運送業を営む40代男性。だが、彼の表情は晴れていない。
理由は、ここから先を聞けばすぐに分かった。
2 “広告の顔”と“契約書の顔”は別物
男性が差し出したのは、コピーした契約書の束だった。
広告では「手数料1%〜」「スマホだけでOK」と明るい言葉が躍っていたはずだ。
しかし契約書に書かれていた数字は、18%。
さらに「諸費用」「事務手数料」「初回分割手数料」など、小さく書かれた項目が積み重なり、
実質的な負担は“ほぼ貸金”と言って差し支えないレベルまで跳ね上がっていた。
「最初に聞いた額と違う、と言ったんです。でも“今すぐ必要でしょ?”と迫られて……」
これは典型的なケースだ。
そして、ここで終わらない。
3 “売掛先に言わない”という約束は、やがて崩れる
2社間ファクタリング。
業者が最も多く使うこの方式は「売掛先に通知が行かない」という点を売り文句にする。
しかし、実態は違う。
支払予定の入金に遅れが生じたり、業者側の内部与信判断が変わったりすると、平気で売掛先に連絡が入ることがある。
建設下請の男性のケースでは、売掛先の大手建設会社に突然「債権譲渡の確認」が入った。
以後、その取引では「経営状態に不安あり」というラベルが一時的についたという。
「“絶対に売掛先には通知しません”って言ってたのに……。
会社の信用、あれで本当に揺らぎましたよ」
これは決してレアケースではない。
“売掛先にバレない”という約束は、業者側にとっては“広告上の言葉”でしかない。
4 ステルス広告と“第三者の声”の正体
調査を続ける中で、もうひとつの「薄暗い影」が見えてきた。
口コミ風のブログ、法人向け比較サイト、SNSでの“利用者レビュー”。
その多くが、実は広告代理店が作った記事だった。
特に悪質なのは、第三者の相談員や「元銀行マン」を名乗りながら、
実際には特定業者への誘導を目的にしているケースだ。
業者側の社名はぼかし、手数料の説明は不自然に薄い。
そして最後に「実際に利用してみてよかったのがこちら」とリンクが置かれている。
こうした“第三者装い広告”は、資金繰りに追われる事業者ほど引っかかりやすい。
冷静に比較する余裕がないからだ。
5 匿名で語られた“最後の電話”
ある50代の設備工事業者は、資金繰り悪化の末、負担しきれない手数料により廃業に追い込まれた。
「最初は、これで回ると思ったんです。
でも一度使うと、また次も……
気がついたら、手数料だけで毎月売上の1割以上が消えていました」
最後の電話で、その業者はこう言った。
「誤解しないでください。全部が悪いわけじゃない。
でも“困っている人が何を見落としやすいか”を知り尽くした仕組みになってるんです」
彼が言った“仕組み”という言葉には、ただの怒りではなく、
業界全体の構造が生んだ悲しみが滲んでいた。
6 “必要な金融”か、“合法ヤミ金”か
ファクタリングは、本来は優れた金融手段だ。
売掛金の早期現金化は、世界中の企業で利用されている。
しかし、日本の小規模事業者向けファクタリングは、
その普及速度に対して、利用者保護や広告規制が追いついていない。
結果として
・手数料の不透明化
・広告の誇張
・契約書の複雑化
・売掛先への影響
・“繰り返し利用”の罠
これらが入り混じり、泥水のような市場が生まれている。
私は“業界すべてが悪質”と言うつもりはない。
しかし、利用者が適正な判断を下すには、
あまりにも“見えない罠”が多すぎる。
7 次回予告
次回は、この業界の最深部――
「AI審査と信用スコアによる“自動化された与信の罠”」
に踏み込む。
人ではなく「アルゴリズムが貸す・貸さないを決める」時代。
そこには、また別の闇が潜んでいる。

